25年前の今週、米株式市場でナスダック総合指数はITバブル期のピークを記録した。それまでの5年間で500%を超える急騰を遂げていた。その後のバブル崩壊が、急激かつ残酷だったことは記憶に残っている。
3月10日(米時間)、米国株式市場は急落した。ITバブル崩壊の悪夢が、多くの人々を捉えている。急落の理由は、トランプ関税合戦の激化や米政府機関閉鎖の可能性を背景に、米経済が景気後退に陥るという懸念が強まったからだ。ダウ工業株30種は890ドル安で引けた。ナスダック総合の下げがきつく4%安。S&P総合500種は2.7%安である。25年前のITバブル崩壊と符節が合っている予感もする。
トランプ政権は、「予定通り」の株価下落としている。これから始まるトランプ政権による世界経済秩序の「書き換え」に伴う過渡的な現象と強気姿勢を貫いている。
『ブルームバーグ』(3月11日付)は、「米株式相場は『解毒中』かメルトダウンか」と題する記事を掲載した。
米株式市場は過去2年余り、自己強化型なモメンタムを背景に上昇してきた。2022年10月以来、S&P500種株価指数は60%超という驚異的な上昇を遂げた。株価が上がれば上がるほど、世界中の投資家は上昇が続くと信じるようになった。しかし残念なことに、そうした惰性の力が今度はわれわれを間違った方向に導いているようだ。
(1)「S&P500種は先月に100日移動平均を割り込み、相場のトレンドが変わりつつある兆候を示した。最近では2023年以来となる200日移動平均割れが意識されている。もはや市場は「米国ファースト」ではなくなったことを示している。マクロ経済の状況は足元で急速に変化している。企業業績は比較的堅調に推移しているが、トランプ大統領が仕掛ける貿易戦争は企業や消費者のセンチメントに重くのしかかっている。政府効率化省(DOGE)は連邦政府機関での大規模人員削減を進めており、その影響は今後の雇用統計に表れ始めるだろう。トランプ関税によってインフレの脅威が長引けば、米金融当局が景気下支えのために政策金利を引き下げる余地は制限されかねない」
株価は3月10日、S&P500種の200日移動平均線を割った。2023年11月以来初めてである。25年前のITバブル崩壊の悪夢が、市場を覆うことは避けられまい。
(2)「もちろん、株式市場の低迷は一時的なものだという考えもあるだろう。ベッセント財務長官は7日、「市場も経済も中毒になっていた。われわれは政府支出に病みつきになっていた」と経済専門局CNBCとのインタビューで指摘。「この先はデトックス(解毒)の期間になる」と話した。トランプ氏の通商政策は市場を動揺させているが、「貿易戦争劇場」だと表するコメンテーターもいる。投資家の関心がいずれ減税と規制緩和に向かうことで、今年後半にはトランプ氏が株式相場を再び上昇に向かわせるというのが彼らの主張だ」
ベッセント財務長官は、株価急落を「解毒」としており、意に介する様子を見せない。米国経済は、新たな地平を切り開く「第一歩」にあり、株価下落はその摩擦熱という認識である。
(3)「そうかもしれない。しかし、リスクは山積している。政治的には、トランプ氏が関税の手を完全に緩めるかどうか不透明だ。特に対中関税はどうなるか分からない。そうなると企業は、トランプ大統領の基準を満たすためにサプライチェーンを再編成するという、コストと時間のかかるプロセスに直面することになる。同時に、税制や規制緩和には政治的な合意形成という骨の折れる作業が必要となる。共和党は議会を掌握しているとはいえ、下院では僅差で過半数を占めている状況であり、合意形成は簡単なプロセスではないだろう。トランプ氏は共和党内の財政タカ派を説得しなければならない。仮に政治の世界で合意が得られたとしても、債券自警団は別の判断を下す可能性がある」
トランプ氏の関税引き上げが、国内物価を押上げる危険性を高めている。「債券自警団」という債券市場の反応も気にかかる。前途には、大きな壁が立ちはだかっているが、「解毒」という一時的現象に止まらず、長期化する恐れも否定できない。
(4)「個人消費も大きな波乱要因だろう。不安定な金融市場と関税による物価上昇が組み合わされば、米国の消費者は買い控えに動くかもしれない。実際、連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストによる調査によれば、ここ数年の小売需要の多くは中所得者層と高所得者層によるものだ。とりわけ高所得者の消費は「資産効果」によって支えられているとみられる。最近の小売売上高と個人消費支出(PCE)統計では、支出がすでに失速していることが示唆されている」
株価下落は、「逆資産効果」で消費を抑制する。1%の高所得者が、消費の50%を占めているというデータもある。株価下落のマイナス効果は大きいだろう。
(5)「慣性の力は強く、トランプ氏が株価低迷に歯止めをかけられるかどうかは分からない。たとえ政策的状況が改善したとしても、だ。過去数年間、株価上昇によって以前より豊かになったと感じた消費者は支出を増やし、それが企業の業績にも寄与した。しかし、慣性力は下り坂でも働く。株式市場の急落は、消費者や企業の慎重姿勢を強め、人員削減は最初は細々としたものであっても消費と企業業績にいずれ打撃を与える。強気相場は一度崩れると、再び元に戻すのは容易ではない」
株価の移動平均線は、「慣性」そのものを象徴する存在だ。時価が、200日移動平均線を割ったことは、下落への慣性が強まってきた証拠であろう。トランプ氏は、いくら「予定の線」とは言え、無視できない障害が持ち上がった。
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