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超強気がトレードマークのテスラCEOマスク氏は、かつてない逆風を受けている。マスク氏は、トランプ政権で財政赤字削減を旗印にした「人員整理」を強行しているからだ。それだけでなく、他国の政治にまで口出しすることから欧州でも不評を買っている。こうした背景から、テスラ車の売れ行きが急減している。

マスク氏は10日、株価急落後にFOXビジネスのインタビューを受け、企業経営と公職との両立に苦労していると心情を吐露した。超強気のマスク氏は、テスラ車の販売急減を受けた株価急落に音を上げている様子である。

『ロイター』(3月7日付)は、「全米で広がる反マスク行動『#テスラたたきつぶせ』」と題する記事を掲載した。

(1)「テスラ車のドライバーの中には、売却しようしているのに反マスク派の見知らぬ人たちから嫌がらせを受けることがある。ワシントン州ウォーリングフォードのライナー・エッカートさん(69)はテスラ車を6年前に購入したが、売却収入を慈善団体に寄付するつもりだ。エッカートさんは今、自分のテスラ車に「彼が嫌な奴だと皆が知る前に買った」と書いたステッカーを車に貼っている。それでも見知らぬ人が「ナチスの車」と書き殴った紙を1日に3回も貼り付けられてしまう」

人々のマスク氏への反感は頂点に達している。テスラへ、「ナチスの車」とまで非難の紙を貼られる事態を迎えている。これでは、テスラ車の売行きが急減するのは当然であろう。


『ニューズウィーク 日本語版』(3月11日付)は、「テスラ販売急減の衝撃、国別に見た『最も苦戦している市場』とは」と題する記事を掲載した。

テスラ車は売上が急減している。その原因はさまざまだ。電気自動車(EV)業界における他メーカーとの競争激化に加え、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の言動も一因だ。マスク氏が政治に執着しているせいで、一部の顧客と、不安を抱く投資家の気持ちが離れつつあるのだ。

(2)「アナリストたちの指摘によると、テスラの販売不振と株価下落には、マスク氏の行動が関係している。マスク氏は、トランプ大統領が率いる米政権に深く関与しており、「政府効率化省」(DOGE)で政府のコストや職員の削減にあたっているほか、欧州の政治にも口出ししている。こうしたことが、テスラを支える顧客基盤の一部を遠ざけ、各地のテスラ工場やテスラ販売店での抗議デモに火をつけた。しかし、テスラ車の需要が鈍化した根本的原因は、マスク氏だけではない。レガシーな自動車メーカーがEV業界に参入したことで競争が激化したほか、中国の比亜迪(BYD)をはじめとする海外EVメーカーが競争に油を注いでいる。では、テスラが大きな打撃を受けている国や地域を見ていこう」

マスク氏は、米国官僚機構へ人員整理という大ナタを持ち込んでいる。これが、訴訟事件を相次いで引き起して不評を呼んでいる。「選挙で選ばれていない人間が好き勝手をしている」との非難に結びついているのだ。CMによって自動車を売る時代に、マスク氏の行動はわざわざ自社イメージを傷つけている。一度ついた悪評の挽回は困難であろう。


(3)「欧州自動車工業会(ACEA)が発表した最新データによると、欧州連合(EU)、欧州自由貿易連合(EFTA)、ならびに英国におけるテスラの2025年1月販売台数は9945台で、2024年1月の1万8161台から45%減少した。テスラのシェアは、1.8%から1%に減少した。その一方で、同期間にバッテリー式EVの販売台数は34%伸びている。マスク氏はドイツで、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」支持を表明して大きく取り上げられたり、2024年1月の米大統領就任イベントでナチス・ドイツの敬礼に似たしぐさを見せて大きな批判にさらされたりした。そして、売上も落ち込んでいる。ドイツ連邦自動車交通局によると、2月のテスラ新規登録台数は1429台と、前年同月比で76%減となった」

マスク氏は、英国やドイツを批判している。ビジネス上は、絶対に行ってはならぬ「タブー」を平気で破っているのだ。「トランプ魔術」に陶酔しているのであろう。

(4)「EV専門誌『Electrek』によると、欧州大陸でテスラ車の販売が最も急減した国の1つがスペインだ。1月の販売台数は269台と、前年同月の1094台から75%減少した。中国の全国乗用車市場情報連合会(乗連会)の予備データを見ると、2月における中国製テスラの販売台数は3万0688台と、前年同月比で49%減だった。それに引き換え、中国のライバル企業BYDは、国内向けと輸出向けを合わせた卸売販売台数が31万8233台と、前年同月比で161%増だった」

スペインの販売減は、75%である。凄い落込みである。これは、今後の販売回復に絶望的な減少である。

(4)「ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、スティーブ・マン氏によれば、中国製テスラの販売台数が減少したのは、上海工場で生産が停止されたからのようだ。つまり、生産が停止されていなければ、出荷台数の減少幅ははるかに小さかったということになる」

中国の落込みは、上海工場で生産が停止された影響という。これは在庫を減らすための生産調整である。生産が停止されていなければ、出荷台数の減少幅ははるかに小さかったという推測は間違いだ。