ロシアは、ウクライナ戦争終結をにらんで米国との接近を窺わせるような動きを見せ始めた。これまで、大量の中国製自動車を輸入してきたが、「リサイクル料」名目で大半の乗用車で66万7000ルーブル(約110万円)へ引き上げた。今後も引上げられる見通しで、事実上の関税の役割を果す。ロシアは、米国製自動車輸入再開へ道を開こうとしているとみられる。変わり身の早いロシアの行動に驚きである。
『フィナンシャル・タイムズ』(3月10日付)は、「ロシア、中国車の輸入急増阻止 実質的な関税を引き上げ
ロシア政府が中国車の大量輸入の抑制に乗り出し、友好的な対ロ関係への依存を強めてきた中国の自動車メーカーと輸出業者に打撃を与えている。
(1)「中国乗用車協会(CPCA)によると、2024年にロシアへ輸出された中国車の数は、22年の7倍に達した。ウクライナ戦争で制裁を受けているロシアは、西側諸国のブランドの自動車を輸入できなくなっている。米国、欧州連合(EU)、カナダ、トルコ、ブラジルといった市場で反ダンピング(不当廉売)措置を課され、販売が下押しされている中国メーカーにとっても、ロシアでの需要は好都合だった」
中国自動車メーカーにとって、西側から経済制裁を受けているロシアは、最高の輸出市場であった。それが今、急変しようとしている。ウクライナ戦争終結を見込んだ米ロ接近が、中国車を阻もうとしているようだ。
(2)「CPCAの崔東樹・秘書長は「(ロシアで)海外ブランドが中国車にすっかり置き換わった」と話し、「ロシア・ウクライナ間の危機が終わると、中国車メーカーにかかるプレッシャーが劇的に強まるだろう」と続けた。ロシアは24年、100万台を超える中国車を輸入した。これは中国全体のガソリン車輸出の約3割に上る。CPCAのデータによると、ロシア市場では中国ブランドのシェアが63%に伸びた一方、国内ブランドのシェアが29%にとどまった」
ロシアは24年、中国車100万台超を輸入した。中国全体のガソリン車輸出の約3割に上がる。これだけの規模だけに、中国にとっては「ロシアの心変わり」が大きな痛手になる。
(3)「ロシア政府は、この流れに歯止めをかけようとしている。1月には、関税と同様の効果がある「リサイクル(再利用)料」を大半の乗用車で66万7000ルーブル(約110万円)に引き上げた。この金額は24年9月時点に比べて2倍を超える。今後も30年まで、年10〜20%の値上げが実施される見通しだ。米コンサルティング会社ロディアム・グループの自動車アナリスト、グレゴール・セバスチャン氏は「安価な中国車の大量流入が国内での生産に悪影響を与えている」という国際的な認識をロシアも共有するようになったと指摘する」
日本では、普通乗用車のリサイクル料は、約1万円~1万8000円程度とされる。ロシアでは、何と110万円という。これは、輸入禁止的な高関税になる。
(4)「セバスチャン氏は、ロシアが中国各社に「現地生産の拡大を求めている」と説明した。「しばらくは仕方がないと感じていたものの、(ロシア側が)ここにきて自らの交渉力に気づきつつある。中国の自動車メーカーにとってのかなり重要な市場になってきた」。さらにロシアでの最近の調査により、中国の主要トラックメーカー3社の安全基準違反が発覚し、1つのモデルがロシアでの販売を禁じられた。ロシア政府関係者は、輸入車に対して新たな法令順守状況チェックや検査を導入する構えを見せている」
ロシアの自動車産業は、今回のウクライナ戦争で大きな影響を受けている。それだけに、中国車の輸入が急場を救った形であるが、再び国際情勢が変わり始めたことをロシアは肌身で感じ取っているのであろう。
(5)「ロシアへと次々と運ばれる中国車の多くは、綏芬河(すいふんが)をはじめとする中国東北部の国境地帯を通る。いてついた道路に出荷待ちの自動車が並ぶ綏芬河で、ある中国の業者は「関税と、それがわれわれにとって何を意味するかについて、懸念も不満もたくさんある」と語った。「欧州と米国に制裁を科されたから、こちらに頼ってきたくせに」。CPCAによると、ロシア市場で中国勢のトップを走るのは、国有の奇瑞汽車(チェリー)だ。24年1〜3月期にはロシアで43万台を売り上げ、同社の総販売台数の28%を占めた。香港上場を目指す奇瑞汽車は「対ロ販売によって相当な売上高がもたらされた」と新規株式公開(IPO)の書類に記しつつも、「制裁リスクの緩和」に向けてロシアへの販売を減らしていく計画を打ち出している」
中国側には,ロシアの「心変わり」が恨めしいようである。ウクライナに平和が戻れば、中国自動車メーカーには市場喪失危機が高まる。
(6)「ロシアでの中国車ブームは、中古車とガソリン車の販路を開くことにもなった。いずれも中国内では電気自動車(EV)人気に押され、売り上げが振るわない。24年はロシアに輸出された中国車のうち、97%がガソリン車だった。綏芬河の地元当局者によると、中古車の輸出は24年に612%増加した。中古車の対外販売を促進する政策に加え、国内の需要喚起を目的とした自動車買い替え促進策を受けて多くの人が、古いガソリン車を手放したという背景がある」
中国にとって、ロシアへのガソリン車と中古車輸出は、国内EV化促進の上で欠かせない「バッファー」であった。それが、これから急速に縮小するとすれば、中国の自動車生産に影響する。
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