テイカカズラ
   

物価下落の暗いサイン
名目GDPは過大見積
公的債務比率は8.6%
地方財政の破綻リスク

中国は3月5日から1週間、年1回の全人代(国会)を開催した。ここで、25年経済成長目標など、重要な施策が相次いで発表された。注目の25年経済成長率目標は、3年連続で「5%前後」が据え置かれた。25年の大卒者が、1200万人も見込まれているので、5%前後の成長率が雇用確保のため不可欠とされている。

5%前後の成長率とは実質値である。現実経済は、名目値で動いているだけに、名目値で5%を達成して初めて雇用目標が達成される。24年の実質GDPは5%成長だが、名目GDP成長率は4.2%と実質GDPを大きく下回った。24年の若者失業率は16%台。25年の大卒者を広く就職させるには、名目GDPが5%にならなければ「絵空事」に終る。この危険性が、25年も極めて高いことを強調しなければならない。


中国は、25年のインフレ目標値を長く据え置いた3%から2%へ引下げた。3%のインフレ率は、過大な目標である。2011年の5.4%以来ずっと起こっていないからだ。それにもかかわらず、3%目標を据え置いたのは、中国共産党がインフレに対して恐怖症を抱いている結果である。インフレが、国民の生活不安を煽って社会不安へ繋がる危険性を持っているからだ。天安門事件(1989年)の引き金は、1988~89年の2年連続で18%台の物価高騰に見舞われたことにある。共産党指導部には、インフレ警戒心が極めて高い理由だ。

中国経済でいま起こっていることは、インフレと真反対のデフレである。習近平国家主席は、「物価が下がって何が悪い」と経済顧問に語ったことから、習氏に対してデフレという言葉が禁句となった。一種の忖度である。「馬鹿」という言葉の由来の一つに、「王が馬をみて鹿と言った」とされる説がある。中国では、長いことデフレは「良いこと」とみなされる異常な政治空間に置かれていた。まさに、物価の「馬鹿」現象が起こっていた。

物価下落の暗いサイン
中国の2月の消費者物価上昇率(CPI)は、前年比で1年ぶりにマイナス0.7%へ落込んだ。1月は、同0.5%上昇であった。今年の1月から2月にかけて、CPIに激変が起こったのは春節(お正月)が1月28日~2月4日であったことと微妙に符節が合っている。春節の前半4日は正月気分を満喫して支出を増やしたが、2月の春節では、早々と日常生活に戻って節約スタイルを始めたことだ。それは、食品支出(主に豚肉)に現れている。食品価格は、1月に0.4%上昇だったが、2月は3.3%も下落している。この顕著な変化に気付くべきだろう。


中国の家庭では、豚肉が最大のご馳走である。1月の春節では豚肉を振る舞ったが、2月の春節では豚肉を節約したのだろう。庶民最大の行事である春節の食卓が、不景気の風にさらされていることは十分に想像できるのだ。

中国指導部は、こういう国民生活に忍び寄る「隙間風」をみて、中国経済がデフレ状況へ落込んでいることを再認識したとみられる。全人代での李首相演説では、次のように語った。「特に消費が低迷している」と認め、「雇用創出と所得の伸びに対する圧力」を指摘し、家計需要を「強力に押し上げる」と約束した。ハイテク産業への支援を継続し、投資効率を向上させる方針も示した。

以上のように、対策が羅列されている。現実にはどのような対応を取るのか。それをみておきたい。

1)GDPの伸び率は5%前後とする。
2)都市部の新規就業者数は1200万人以上とする。
3)財政赤字のGDP比は1ポイント増の4%前後とする。
4)不動産市況の安定や回復に力を入れる。住宅地の新規供給を合理的に規制する。在庫住宅の買い上げを推し進める。買い上げ主体や価格、用途を地方政府が決める際に、国がより大きな権限を与える。


名目GDPは過大見積
以下において、前記項目の実現可能性を検証したい。

1)GDP伸び率5%前後は、3年連続の目標になっている。問題は、成長の中味を入れ替えることができるかだ。インフラ投資依存の成長から個人消費主体の安定した経済成長路線へ転換できるかが問われている。率直に言って、その可能性はゼロである。個人消費を増やすには、社会保障費や年金の増額が不可欠である。これによって、生活に安定感を与えなければ、国民は安心して消費を増やすはずもない。生活防衛型の支出が続くはずだ。

李首相は、最低年金を20元(約400円)増額して143元(約2860円)とし、医療保険補助金を1人当たり30元(約600円)増額するほか、基本的な医療サービスに対する補助金を5元(約100円)増額することなどを示唆した。福祉給付の増額はわずかだ。こういう微々たる金額では、庶民の暮しに「安心」を届けられるはずもない。(つづく)

この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

https://www.mag2.com/m/0001684526