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外国為替市場では、トランプ氏が昨年の大統領選に勝利して以来、投機筋がドルに対して弱気な姿勢に転じた。米商品先物取引委員会(CFTC)が発表したデータ(3月18日終了週)によると、ヘッジファンドなど投機筋によるドルショート(ドル売り)が9億3200万ドル(約1390億円)規模に達した。ドルのロングポジション(ドル買い)340億ドル規模に上っていた1月中旬からは劇的な変化だ。トランプ氏の政策や米経済に対する疑問が、ドルの見通しを修正する兆候が浮き彫りになった。

『ブルームバーグ』(3月22日付)は、「投機筋がドルショートに転じる トランプ氏勝利以来―不透明感が重し」と題する記事を掲載した。

(1)「アムンディの債券・為替戦略ディレクター、パレシュ・ウパダヤ氏は、「トランプトレードに対する見方は完全にひっくり返った」と指摘。「混乱を招くトランプ氏の政策運営が不確実性をもたらしている」とし、トランプ氏の政策が「経済やインフレ、金融政策に与える影響に関して、市場の見方は景気刺激的から景気縮小的へと変化した」と述べた」


もともと昨年12月中旬時点では、トランプ氏の政策と米金融当局の利下げで2025年後半にドルに下押し圧力がかかる可能性が高いとみていた。だが、この「ドル安転換」予想時期が早まってきた。トランプ関税政策が、ますます不透明になっているからだ。トランプ氏得意の減税政策もしぼんでいる以上、ドル安予想へ早めに舵を切っている。

ドルは24年に大幅上昇しており、15年以来最大の上げとなった。米大統領選挙でのトランプ氏勝利と、好調な経済データを受け、トレーダーらが来年の米利下げ回数予測を下方修正したことが要因だ。専門家は、ドルの強さについて「胃が痛くなる思いだ」と述べ、「長期的に持続不可能な水準まで相場が押し上げられている」と指摘していた。こういう、異常なドル高相場であった以上、「過熱」部分の剥落が起こったところで驚くには当るまい。


(2)「ウォール街では、2025年のドル相場について、少なくとも上期はドル高になるとの予想が多かった。トランプ大統領の政策見通しに加え、米利下げ回数が限定的になるとの見方が背景にあった。だが、足元では米経済の先行きに対する不安から、2026年1月までに3回の利下げが行われるとの観測が強まっている」

トランプ氏は、関税引上げに伴い利下げするように、とFRB(米連邦準備制度理事会)へ希望を出し始めているが、そういう甘い期待を持てるはずがない。関税引き上げが、国内物価を押上げるリスクを高めるからだ。

ドル強気派の多くは昨年末、トランプ氏の関税引上げがドルを支えるとの見方を強め。ドル買いのポジションを積み上げてきた背景がある。現実には、逆の事が起こっている以上、「ドル売り」ポジションへ乗換えるのは当然のことである。投機筋は、見方が間違っていたと悟れば後は、「脱兎」のごとく走り出すのが習性である。


ブルームバーグ・ドル・スポット指数の大半は、昨年11月初めの選挙日直前とそれ以降の上げとされている。トランプ氏の関税と減税がインフレをあおり、米金融当局の利下げ方針を向こう数カ月にわたり複雑化させるとの見方がドル高を後押ししたのだ。

トランプ政権下のドル相場の動向を考える場合、過去の値動きが参考になる。9年前のトランプ氏初当選直後に急上昇した後、17年には、米経済の勢いが失われる一方で欧州の成長が加速したため、ブルームバーグ・ドル指数は年間で過去最大の下落を記録した。ウォール街は、昨年末の時点で25年に劇的なドル安にならないと予想していた。だが、現在のユーロ相場は上昇しており、どうやら17年の再現になる可能性を否定できなくなっている。ユーロは、ドイツが財政拡大政策へ切替えたことでユーロ高・ドル安場面となっている。