中国は、米国の高関税政策に苦悩している。国内経済が沈滞しているだけに、対米輸出は重要な支柱である。そこで浮上しているのが、1980年代の日本が行った対米輸出の自主規制である。ただ、日本は自主規制しながら米国内での工場建設を行った。だが、トランプ政権は中国企業の投資受入れに対してどう対応するのか不透明である。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月22日付)は、「中国政府、対米輸出の自主規制も検討 トランプ氏を懐柔する狙い」と題する記事を掲載した。
中国政府はトランプ1次政権時に、1980年代の日本のように米国の貿易圧力には屈しないことを決意していた。だが中国国内の景気が低迷し、2期目のトランプ政権からさらに大きな経済的攻撃に直面する中、同国が当時の日本の戦略を一部踏襲する可能性も生じている。
(1)「中国政府のアドバイザーらによれば、中国は数十年前の日本と同様に、米国への特定商品の輸出量を自主的に制限することで、米国のさらなる関税引き上げやその他の貿易障壁を回避しようと検討。日本は1980年代に輸出自主規制(VER)に基づき、対米自動車輸出を制限することで、米国の高関税賦課を回避した」
中国は、口先では米国の圧迫には徹底的戦うと勇ましい言動をしているが、懐事情から言えば「ヒヤヒヤ」している。
(2)「米国は電気自動車(EV)やバッテリーなどといった分野で中国政府に懸念を示しており、中国がこれらの輸出を自主規制すれば、「経済的不均衡」に対する米国などからの批判を和らげることができる。米国を含む各国は、政府の手厚い補助金を受けた中国企業が薄利多売で世界市場を席巻し、他国のメーカーに打撃を与えていることで経済的不均衡が生じていると指摘している。トランプ氏はすでに中国に対し、1期目に課した関税に加えて累計20%の新たな関税を課している。またこれらの関税は、バイデン前政権によってもほぼ維持されてきた」
中国製品には、すべて政府の補助金が使われている。これによって、輸出を促進して外貨を稼ぐという手法である。中国経済は、3兆ドル余の外貨準備高を守らなければ、資金流出リスクに直面する綱渡り経済である。
(3)「米中間の交渉はまだ行われていないが、スコット・ベッセント財務長官は先月末、習近平国家主席の側近で対米貿易交渉の責任者となる見通しの何立峰副首相との初めての電話会談で、市場をねじ曲げる中国政府の慣行への懸念を表明していた。中国政府のアドバイザーらによると、経済当局者らがこの問題に関する日本のアプローチの一部を踏襲しようとしている背景には、米国からの潜在的な圧力などがある。習氏が率いる政府指導部も、さらなる貿易攻撃を回避するためにトランプ政権と取引をする意向を示している」
中国は、米国との対立を緩和させるべく、トランプ政権と取引をする意向を示している。
(4)「日本は1981年に初めて自動車輸出の制限に同意。その結果、輸出は前年比約8%減少した。ダートマス大学の経済学教授のダグ・アーウィン氏は、この規制が特に1980年代半ばには徹底されたと言及。だが、1990年代初頭までには、日本企業が米国市場向けの自動車を現地の工場で生産するようになったこともあり、VERは不要となった。アーウィン氏は、日本が輸出制限に前向きだった理由の一つとして、販売台数が減っても1台あたりの価格を引き上げられることができたからだと指摘。日本車の平均価格は約1000ドル(現在の価値で約3500ドル、約52万円)上昇し、規制の結果として日本はより大型で高品質な車を輸出し始めたという」
日本は、1980年代に対米貿易摩擦を緩和させるために輸出自主規制を行った。輸出対象を小型車から高級車へと引上げて、「台数摩擦」を回避した。
(5)「中国政府のアドバイザーらは当時の日本と同様に、EVやバッテリーの輸出規制を交渉する代わりに、これらの分野での対米投資機会を求めることを検討するかもしれないとした。一部のアドバイザーらは、これがトランプ氏にとっても魅力的な提案だと言及。トランプ政権内では反発もあるものの、トランプ氏は中国からの対米投資拡大に前向きな姿勢を示している」
中国は、米国内でEVやバッテリーを生産するとの案にトランプ政権内で反発している。トランプ氏は歓迎姿勢だが、実現するかどうか不透明である。もっとも、中国政府はバッテリー技術の海外流出を恐れて規制している。このことから言えば、EVの米国生産実現は困難であろう。
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