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株価は、経済を映す鏡である。経済の森羅万象が株価に映し出されるからだ。米国経済もこの本質に変わりない。ここ2ヶ月で、米国株式市場は大きな動きをみせた。問題は、大幅下落の後に反発力が鈍い点に注目すべきである。株価下落が一過性と判断するのは、余りにも早計と言えそうだ。

ここ2ヶ月のダウ工業株平均は高値から17%下落し、現在は11.6%の値戻しである。米国経済との絡みから言えば、ダウ運輸株平均が個人消費関連を網羅しているだけにこの動きが先行性を持っている。ダウ運輸株平均は、高値から23%下落し、現在はわずか2.9%%の戻りにすぎない。これは、米国株市場が明らかに変調を来している証拠であろう。ダウ運輸株平均こそ、米国景気の先行指標として注目する存在である。4月に入れば、トランプ政権が大型の関税引上げを発表する。その時が、山場を迎えよう。


『フィナンシャル・タイムズ』(3月19日付)は、「『株式自警団』の警告、トランプ政権に効かず」と題する記事を掲載した。

株式自警団は、事態が行き詰まって米株価が下落した場合、トランプ大統領が注目して、自身の挑発的な政策の一部を撤回させるのではないかという考え方に基づいている。こうした役目は一般的に債券市場の投資家が果たしてきたが、トランプ氏は1期目に好調な株価という偶然の栄光に酔いしれることができた。それなら逆の展開にも敏感に反応するに違いないと、投資家もアナリストも思っていたはずだ。

(1)「トランプ政権2期目で、この考えは2月に初の試練に見舞われた。友好的な隣国であるはずのカナダとメキシコに対し、トランプ氏が重い関税を課す意向を示した時だ。残念ながら、株式自警団の効果は不十分だった。株価は急落したものの、ホワイトハウスに警鐘を鳴らすほどではなかった。するとトランプ政権は引き下がらず、むしろつけ上がった。より強力な自警団が必要とされているような印象だった」

これまで、市場動向がトランプ氏の政策の歯止め役になると期待されてきた。それが、不発であったという「思い」が強いという。だが、4月以降に大型の関税引上げ案件が控えている。油断はできないのだ。


(2)「1ヶ月後、市場の混迷はさらに深まり、米株式市場が直近の高値から10%下げるという「調整局面」に一時陥った。まだ下げ進むかどうかについては、当然ながら意見が分かれる。2人のアナリストに聞けば、少なくとも3通りの答えが返ってくるだろう。いずれにしても、米国に対する運用担当者の見方は、今の段階からすでに大きく変わってしまっている」

米国株式市場では、ダウ運輸株平均がマクロ経済の先行性を持っている。冒頭に指摘したように、2ヶ月間で23%下落し2.9%の値戻しに止まっている。米国の個人消費関連は、深く傷ついているのだ。見落としてはいけない指標である。

(3)「米銀大手バンク・オブ・アメリカが18日、世界のファンド運用担当者を対象とした月次調査結果を発表したところ、米国株への投資比率を表す指標が統計史上最大の落ち込みを記録した。米国株を「アンダーウエート」(基準を下回る構成比率)とする割合が「オーバーウエート」(基準を上回る構成比率)とする割合を25%近く上回り、投資配分の指標としては前回から40ポイント低下した。これまで大いにもてはやされてきた「米国は例外」という概念はもうピークを過ぎたという回答が7割近くに上った」

米国株がピークを過ぎたとみる回答が7割近い。これは、無視できない動きだ。


(4)「地合いは悪い。バンカメの最新調査では、世界経済が軟化するという悲観的な観測も1994年の統計開始以来で2番目の大幅増となった。ちなみに、悲観度が統計史上最も大きく高まったのは5年前、新型コロナウイルス禍で世界がロックダウン(都市封鎖)に直面した時だった。いよいよ自警団らしくなってきた。これまで、ほぼすべての運用担当者が、米株式市場が世界の市場を率いてきたと信じていた。そうしたなか、二転三転する関税政策に加え、「地政学的な再調整」と遠回しに表現される外交方針の目まぐるしい転換は、米国市場の汚点だ。そうしたメッセージが、ウォール街からトランプ氏にはっきりと突きつけられた」

世界経済が、軟化するという悲観的な観測は、1994年の統計開始以来で2番目の大幅増になっている。現状は、「嵐の前の静けさ」である。

(5)「トランプ氏が、心変わりして政策を巻き戻すという「プット」(注:オプション取引で売る権利のこと)の発動を待つ人々は現在、見通しを誤ったという恐ろしい自覚に近づきつつある。英銀大手HSBCのマルチアセット運用部門は「プットはどこに行った」と問いかけた。同部門によると、「トランプ・プット」の可能性が戻ってくるには、国債または株式市場の持続的な流動性低下、金融システムの根幹に関わるストレスの発生、リスク資産の世界的な暴落のいずれかが実際に起きる必要がある。現状はどれにも当てはまらない。例えば、米国の株安は欧州にまで完全に波及しているわけではなく、相場の動きは不快ではあれども秩序を保っている」

現状が、明るい方向へ向っていると言える証拠はゼロだ。むしろ、4月からの大型関税引上げが始まる。その影響が、これから株式市場を揺り動かすであろう。現状は、「小休止」状態である。