あじさいのたまご
   

米国民主政治の危機が指摘されている。トランプ氏の大統領令一本で、次々と既存決定を覆しているからだ。立法府の国会は、与党共和党が多数決を握っており、完全な「トランプ党」に変わった。トランプ氏の暴走にブレーキをかける人々が消えたのだ。こうなると、最後は、司法が唯一の抵抗という危うい事態を招いている。

『ロイター』(3月24日付)は、「米国の三権分立揺るがすトランプ氏の権力行使、司法が唯一抵抗」と題する記事を掲載した。

トランプ米大統領がホワイトハウスに復帰して以来の権力行使は、18世紀に確立された米国の憲法上のチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)体制を試練にさらしている。トランプ氏と同じ共和党が多数を占める議会はおおむね同氏の政策に同調しているため、次々と繰り出される大統領令を抑え込む唯一の存在として浮上しているのが、連邦裁判所の判事らだ。


(1)「トランプ氏による対外援助や連邦支出の削減、政府職員の解雇、1798年の「敵性外国人法」に基づく強制送還などについて裁判所は実行を阻む命令を下している。連邦裁判所判事らは、政権が命令をどこまで順守するのかを厳しく精査している。連邦地裁判事は、ベネズエラの犯罪組織メンバーの迅速な強制送還を停止するよう命じた。トランプ氏は前週、この件について議会での弾劾を要求したが、ロバーツ最高裁長官は同氏の発言を非難した。米国の建国の父らは憲法で三権分立を確立し、行政、立法、司法の各機関が互いの権力をチェックし合うよう設計した」

ロバーツ連邦最高裁長官は3月18日、異例の声明を発表してトランプ氏らの判事弾劾要求に反論した。長官は声明で、「2世紀以上にわたり、弾劾は司法の判断に関する意見の不一致への適切な対応ではないということが確立されてきた。その目的のために通常の上級審による審理プロセスが存在する」と指摘した。最高裁長官が、自身の見解を示すことは異例だ。名指しはしていないが、トランプ氏や側近への反論とみられる。『ブルームバーグ』(3月19日付)が報じた。司法は、3審制によって裁判結果の誤りを糺す制度が備わっているから、「判事弾劾は不要」という意味である。トランプ氏の急所を突いている。


(2)「ジョージタウン大のデービッド・スーパー教授(法学)は、トランプ氏が「他の2つの政府部門(注:司法・立法)を明らかに犠牲にし、大統領権限を拡大するために非常に積極的に動いている」と話す。アメリカン大ワシントン法科大学院のエリザベス・ベスケ教授は、トランプ政権による憲法上の秩序の再構築は「段階的に進んでいる」と指摘した。トランプ政権は、行き過ぎているのは大統領ではなく司法だと主張している。トランプ氏は20日、最高裁に対し、連邦判事らが政権による全国的な措置に差し止め命令を出す権限を制限するよう求めた。トランプ氏はソーシャルメディアに「手遅れになる前に、全国的な差し止め命令を今すぐやめよ。ロバーツ最高裁長官と最高裁が、この有害で前例のない状況を直ちに正さなければ、わが国は非常に深刻な事態に陥る!」と投稿した」

トランプ氏は、最高裁長官へまで物を言い始めている。三権分立へ挑戦である。

(3)「法律の専門家によると、トランプ氏は監察官や各種機関の長官を解任するなど、行政機関内のチェック機能を弱体化させることも狙っている。これらの職は、大統領の管理からある程度独立性を持たせる狙いで議会が導入したポストだ。トランプ氏の広範な権力行使の一部は、いわゆる「単一執行府」論に沿っている。この保守的な法的見解では、大統領は行政部門に対して広大な権限を有しているとされる。独立機関の長官が不当に解雇されることがないよう議会が制限を課そうとした場合でさえだ」

トランプ氏は、誰からの権限行使を邪魔されたくないという「単一執行府」論の信奉者である。民主政治は、「チェック・アンド・バランス」の三権分立が基本だ。中国政治を真似しようと言うのだろうか。


(4)「単一執行府論を提唱するカリフォルニア大バークレー校法学部のジョン・ユー教授によると、トランプ氏は大統領権限を、ウォーターゲート事件の後に実施された改革以前の水準に戻そうとしている。同事件でニクソン大統領(当時)は1974年に辞任したが、この際の改革は大統領の権限を犠牲にして議会の権限を増大させたとユー氏は主張する。ユー氏は「トランプ氏の行動の多くは、ウォーターゲート事件後の改革を覆し、行政機関に対する大統領の完全な支配権を復活させる試みだと理解できる」と語った」

トランプ氏は、ニクソンへ深く傾倒している。「政治の師」はニクソン元大統領である。大統領の行政機関に対する完全な支配権を復活させようと、政治の歯車を逆回転させようとしている。

(5)「ブッシュ元大統領に任命された元連邦高裁判事、トーマス・グリフィス氏は討論会で「議会は大統領権限を制限することに特に関心がないようだ。そのため、大統領による権限行使に異議を唱える訴訟が起こされている」と説明した。トランプ氏が権限を行使して次々と行政機関高官らを解任した問題が、裁判で争われている。うち連邦高裁はトランプ氏によるデリンジャー特別検察官局(OSC)局長の解任を認め、トランプ氏が勝利を収めた」

米民主党上院トップのシューマー院内総務は、トランプ大統領が自らの政策を阻止する裁判所の決定に逆らえば、米国民は「立ち上がる」と予想した。司法判断に従うというトランプ氏の約束は信用していないと語った。『ブルームバーグ』(3月24日付)が報じた。国民は、民主党が沈黙していることで批判を強めている。民主党は、大統領選敗北ショックから早く立直って、国民へ指針を語るべき時であろう。