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米国は、昔から米車が日本で売れぬ理由について理解しようとせずにいる。日本が、輸入障壁をつくっていると思い込んでいるのだ。これは、米国製品が売れて当然という奢りの結果だ。米国製造業の力量が、落ちていることの認識が足りないと言うほかない。今回、トランプ大統領が「相互関税」を掛けている素朴な理由は、こういう認識不足にあるのだろう。

『ブルームバーグ』(4月9日付)は、「日本市場巡る神話消えず、米国の不満は続く」と題する記事を掲載した。

トランプ氏は近頃、トヨタ自動車は「米国で100万台の外国製自動車を売っているが、ゼネラル・モーターズ(GM)は日本ではほとんど売れない」と関税政策に触れながら述べた。「フォードはほとんど売れない。わが国の企業はどこも外国に進出できない」と付け加え、日本など各国が「非金銭的制限」を設けていると非難した。


(1)「GMとフォードが、日本でほとんど売れていないのは事実だ。GMの販売台数は前年度で約1000台、フォードは200台以下だった。しかし、不公正な貿易慣行が問題であるという考えは誤りであるだけでなく、いつまでも消えない神話の一つだ。米国が日本に課している自動車輸入関税は2.5%だ。日本はトランプ政権以前からもっと低い関税率を米国車に適用していた。日本政府は1978年以降、自動車輸入関税を課していない。確かに過去に障壁があったが、それはもう何年も存在していない。他の障壁も取り払われている」

米国車が、日本で売れない理由は関税や規制にあるのではない。日本の消費者に対して、売る努力が不足しているからだ。

(2)「米国車が売れない理由は実際にはもっと単純なことだ。つまり、米国車に魅力がないのだ。米国の自動車メーカーが、単に日本人が好む車を造ることができなかっただけの話だ。日本のドライバーは安全性と信頼性に優れ、コストパフォーマンスの高い小型で燃費の良い車を求めている。もちろん、こうした要望に応えるのは、米国勢のみならず多くの国内メーカーにとってさえ難しい。だからこそ、日本で売れる車の2台に1台はトヨタ製なのだ」

トヨタは、日本でも抜群の人気である。品質とマーケッティングに違いがあるからだ。


(3)「日本で外国車もよく見かけるが、それは国内メーカーが提供できない何かがあるからだ。それが、日本の高級車市場で外国ブランドが存在感を示している理由だ。メルセデス・ベンツグループは昨年、5万台以上を日本で販売。BMWやフォルクスワーゲン(VW)も成功を収めている。欧州車が高級イメージをアピールできている一方で、米国車の評判は良くない。米国勢が努力を惜しまなければ、その評価は変わるかもしれないが、そうする米メーカーはほとんどない」

ヨーロッパ車は、日本で売れている。ドアの開け閉めには、日本車の技術が及ばないノーハウが詰められているという。

(4)「トランプ氏は、かつて日米安保条約を批判する発言の中で、日本の消費者は日本製のテレビを好むと考え、「もしわれわれが攻撃されたら、日本がわれわれを助ける必要は全くない。ソニーのテレビで見ていればいい」と2019年にやゆしていた。しかし、こうした固定観念はもはや当てはまらない。現在、日本で販売されるテレビの半分以上は中国製だ。かつては低品質とされていた中国ブランドは、コストパフォーマンスの高さで国内の消費者を魅了し始めている。今やソニー製テレビの国内シェアは10%以下に落ち込み、海信家電集団(ハイセンス)やTCL科技集団にリードを許している」

日本の消費者は、品質と価格がリーズナブルであれば、「国籍」を問わずに購入している。テレビが、その良い例である。


(5)「携帯電話市場でも同じことが起きた。2000年代初頭に日本で短い間事業を展開していた英ボーダフォン・グループの経営陣は、他の国々では成功を収めていた戦略が、日本の消費者に受け入れられなかったことに困惑し日本批判をし。数年後、アップルがスマートフォン「iPhone」で日本のほぼ全ての端末サプライヤーを駆逐したことで日本批判の論理が破綻した。日本市場投入から15年余りを経た今、iPhoneは依然として5割のシェアを占めている。経営陣や政治家が、「非関税障壁」や「非金銭的制限」と呼ぶものの表面を少しはがしてみると、その裏にあるのは単に、厳しい国内市場で消費者のより微妙な好みを理解しているライバル企業に対するフラストレーションだというのはよくあることだ」

携帯市場が良い例だ。日本製携帯が強みを発揮していた時代は終わって、iPhoneが5割のシェアを握っている。アップル製品の良さが浸透したからだ。

(6)「顧客の要求は非常に厳しく、その選択はグローバルなトレンドとは異なることが多いが、これは、欧米とは全く異なる文化的基盤を持つ先進的な大規模経済圏では驚くことではない。しかし、ウォルト・ディズニーやLVMH、マクドナルドから動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」に至るまで、日本の消費者は外国の製品やサービスを購入することに何の抵抗もない。これらの企業が受け入れられているのは、何十年にもわたって、国内市場の好みに合うよう努力してきた結果だ」

トランプ氏の日本へ対する「自動車批判」は、的外れである。自国の努力不足を棚に上げた、「傲慢」な屁理屈である。