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円相場は14日、1ドル=142円台をつけて急速な円高になっている。株式市場では、再び「円高不況論」が出始めた。確かに、輸出企業は円高で苦戦するが、日本の家計や零細企業や中小企業には、円高による「交易条件改善」という大きなメリットが転がり込むのだ。今までは、異常円安で「交易条件悪化」で実質所得が海外へ流出していた。今度は、円高によってこれを取戻すことになる。悲観には及ばないのだ。

『日本経済新聞 電子版』(4月14日付)は、「米国債の乱、ヘッジファンドは巨額損失も 円高新潮流に」と題する記事を掲載した。筆者は、エコノミストの豊島逸夫氏である。長年にわたる為替市場の経験に裏打ちされた見通しを発表している。

週末に今回の米国債乱高下で、多くのヘッジファンドが記録的な損失を被ったというメディア情報が、大手投資銀行発で市場に流布された。ヘッジファンド出身のベッセント財務長官は、株急落第一波が市場をせっけんした4月3日午後6時半にヘッジファンド時代の同僚とワインを傾けつつ悠々と夕食していたとの目撃情報も、大手メディアを通じて流れた。

(1)「ベッセント氏は、トランプ米大統領の強硬関税政策と市場の「米国売り」がはらむ容易ならざるリスクを自ら体感していた。このような情報に接すると、市場は「ベッセント・プット」を期待し始める。米国売りが激化したとき、ベッセント氏からの「救いの一言」を期待するのだ。とはいえ、同氏はトランプ氏に絶対忠誠を誓った側近だ。関税重視の立場は変えられない。同じく、トランプ氏とラトニック商務長官がスマホの関税を「除外」したわけではない。半導体関税という形で発動検討中と発言。アップル救済の期待に冷や水を浴びせた」


ベッセント財務長官は、トランプ関税に深くコミットしていなかった。主導したのは、ラトニック商務長官である。トランプ氏の「ご機嫌取り」に終始してきた。こうして、関税政策の見直しは、ベッセント氏の手に移らざるを得なくなっている。ベッセント氏が、「ヘッジファンド時代の同僚とワインを傾けつつ悠々と夕食していた」とされるのは、自分の見通しが当ったという意味だ。

(2)「そもそも、アップルを相互関税除外では救えない。同社が中国に確立した巨大生産基地網と高度人材集団を関税では変えられない。米国が高度産業基盤育成策を怠り、労働者階級と製造業の保護に動いたからだ。米国内に「iPhone」の生産移転など何年かかることか。ここは中国側がお手並み拝見とばかりに、ほくそ笑むところであろう。かくしてトランプ氏は相互関税除外措置という譲歩のカードを一枚切ったが、その効果は期待薄だ」

トランプ氏は、相互関税によって早急に米国製造業が回復すると考えていた。その誤りに気づいたのだ。米国内で、「iPhone」生産が可能になるのは数年先の話である。

(3)「米国民は、いよいよ関税が家計に及ぼす効果をいやでも感じ始めている。買い物すれば、レシートに新項目「関税チャージxx%」と明示される事例も出始めた。労働者階級は(製造業)復権のコストを実感するであろう。物価上昇、景気後退の脅威にいら立ち始める前に、トランプ氏は支持層が納得できる方策を国民向けに示さねばならぬ。しかし、スタグフレーションは全員負けのシナリオともいわれ、米連邦準備理事会(FRB)もお手上げだ」

買い物レシートには、「関税チャージxx%」と明示される事例も出始めた。これは、消費者が「トランプ離れ」する大きな要因になる。米国労働者は、トランプ大統領が雇用を回復させてくれると信じ「1票」を投じた。それが、消費者物価上昇の波が先に襲ってきたのだ。完全な期待外れである。


(4)「日本の視点では、米国債売りによるドル金利上昇とドル安円高が同時進行する不気味な市場環境が4〜6月期は続きそうだ。リスクシナリオとしては信用不安も考慮しておく必要があろう。相場大変動でマージンコール(注:証拠金の積増し)が増え始めると要注意だ。バフェット氏の名言「潮が引いたとき、誰が裸で泳いでいたか分かる」が想起される」

「ドル・スマイル論」によれば、米国経済の混乱がドル安に繋がっている。現状は、まさにドル安局面の到来である。これによって、待望の円高局面が始まる。

(5)「気になる円高だが、自由貿易から保護主義に時代が転換するとき円安の終焉と円高の時代再来のパラダイム・シフトが生じている。外国為替市場で潮目が変わると、驚くほど大きな動きになりやすい。黒田ラインとして意識された1ドル=125円が突破された後の円安急進行がその最たる事例であろう」

円相場のパラダイム・シフト(劇的変化)が、起こっていると指摘している。これまでの「ドル高」の前提がすべて崩れてしまった結果である。流れが変わった、という意味だ。