歴代の米国財務長官は、深刻な経済・金融問題にたびたび直面してきた。ベッセント氏は、トランプ大統領が、世界にもたらした関税の衝撃に対処する重大任務を負う。トランプ氏は、全世界からの輸入品に一律10%の関税を課し、多くの主要貿易相手国への関税を引き上げた。特に、中国には大幅に高い関税率を課している。米国経済を破綻させずに、どのような収束を考えているのか。ベッセント氏の手腕にかかってきた。
『フィナンシャル・タイムズ』(4月12日付)は、「貿易戦争の行方、カギ握るベッセント米財務長官」と題する記事を掲載した。
トランプ氏は、投資家からの圧力を受けて政策の一部を突如後退させたが、米国の資産価格は低迷が続いている。ベッセント氏は、米国を世界経済から孤立させると同時に、米国市場へ自滅の一撃を放った立役者として名を残す恐れがある。そして、世界の準備通貨としてのドルの地位が危うくなりかねない。
(1)「サマーズ元米財務長官は9日、X(旧ツイッター)で「米国の関税政策が全ての原因となる、深刻な金融危機に向かっているかもしれない」と、警鐘を鳴らした。だが、ベッセント氏は支持者にとって救世主になり得る存在に浮上している。同氏は強硬派がひしめく政権内で、トランプ氏と本格的な世界貿易戦争とのはざまに立つ最高位の当局者だ」
ベッセント氏は、政権内で貿易戦争を冷静に指揮できる人物とされる。為替のエキスパートであり、歴史的に有名は英ポンド投機戦で、イングランド銀行を屈服させたほどの緻密な戦略を駆使できる才能を持っている。
(2)「トランプ氏は、6日に米フロリダ州でベッセント氏と会った後、日本と韓国との交渉に道を開き、その責任者にベッセント氏を指名した。トランプ氏が、中国を除く一部の国・地域に対して相互関税の上乗せ分を90日間停止すると発表した9日にも、ベッセント氏は大統領執務室にいた。米コロンビア大学ビジネススクールのマイケル・オリバー・ワインバーグ教授(金融経済学)は「トランプ大統領の政策を軌道修正し、経済や金融市場の大混乱を防ぐには(ベッセント氏が)うってつけの人物だ」と指摘する。「政権内には経済や市場、好不況についてそれほど詳しくない人もいるが、スコット(ベッセント氏)は違う」という」
ベッセント氏は、日本と韓国の関税担当に決まった。日本へは毎年、円相場投機で訪日して細かに情報収拾して円安で巨額の利益を上げた経緯がある。日本経済を知り抜いている。
(3)「ベッセント氏は1962年、サウスカロライナ州生まれた。父親は不動産投資家で、母親は家業を手伝っていた。米エール大学で政治学の学位を取得した後、金融を志すようになった。最初の大きな転機は1990年代初頭、リベラル派の著名投資家ジョージ・ソロス氏率いるヘッジファンド、ソロス・ファンド・マネジメントに入社したことだった。同ファンドが英ポンドの空売りで多額の利益を得た際は、ロンドンオフィスで重要な役割を果たした。「スコットはロンドンの現場で、英国が欧州為替相場メカニズム(ERM)からいずれ離脱せざるを得なくなるという理由について、経済的・論理的根拠や命題を示す役割を担った」とワインバーグ氏は説明した。ベッセント氏は、一度離れたソロス氏のファンドに復職すると、今度は日本円の下落に賭ける空売りで再び成功を収めている」
為替投機で利益を上げるのは、緻密な生の情報分析を必要とする。ベッセント氏には、そういう地味な仕事が似合うタイプと言われる。
(4)「トランプ氏が大統領再選を果たした後、ベッセント氏を財務長官に推したのは、元大統領首席戦略官のスティーブ・バノン氏だった。財務長官に就任してから、ベッセント氏は楽な道のりを歩んできたわけではない。同氏の就任以来、米S&P500種株価指数は13%下落している。一方、長期金利の指標で同氏が最も注視する10年物米国債の利回りは、大規模な売り圧力の中で若干上昇(価格は下落)しており、安全資産としての米国債という投資家の信頼を失いつつあることがうかがえる」
ベッセント氏は、米国経済を立て直すか世界経済もろとも崩れるかという瀬戸際にある。トランプ関税90日間延期は、ベッセント氏の提案とされる。鋭い相場観が生きているのであろう。
(5)「ベッセント氏が、トランプ発の貿易戦争を市場や経済、他国の政府に受け入れられる形に方向付けられるかどうか、判定はまだ下されていない。同氏を知る前出の投資家は「彼は昔からかなり内向的な人間で、少人数のチームで目立たないように仕事をしてきた」と話す。「それが今や、突如として大混乱の中心に立つ著名な公人になってしまった」と指摘」
ベッセント氏には、政権内でライバルになっているハワード・ラトニック商務長官がいる。ラトニック氏は、財務長官のポストを目指していたがベッセント氏に奪われたとされ、関税問題では強硬論をはいて対立を深めている。関税問題の迷走は、ラトニック氏の「横やり」とみられる。トランプ氏は、こういう二人の対立を抱えて、難しい舵取りを迫られるであろう。
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