トランプ米大統領が、4月2日を「米国解放の日」と銘打って関税措置を発表して以来、ドルの持続的な値下がりが起っている。これに端を発して米国債が一時的に投売りされる事態を招いた。中国が、米国への報復で米国債を投売りしたのでないかとの憶測まで飛び出した。国家単位での売却はなかった。
米国市場は、ドルと国債の同時安に襲われて、かつてない不安に襲われた。世界一の経済大国が崩壊するのでないかとの懸念を生んだのだ。今起こりつつあるのは、世界資本の健全なリバランス(再配分)である可能性が高い。円は、ドル高見直しの一環として、再浮上の機会がおとずれたのである。
『ロイター』(4月15日付)は、「ドル安はパニックか、それとも健全な資産再配分かと題するコラムを掲載した。
(1)「トランプ氏が4月2日に「相互関税」を発表する前、ほぼ全てのエコノミストがこの発表でドルは上昇すると予想していた。関税はインフレをもたらすので、理論的には米連邦準備理事会(FRB)の利下げ回数が減ると予想されて債券利回りが上昇するはずだから、というのがその理屈だった。ドルの利回りが他通貨に比べて大幅に上昇することは、短期的にはドル高をもたらすはずだった。ドルが安くなるのは、米国の貿易赤字が縮小し、それに伴い外国企業のドル需要が減る段階が訪れてからのはずだった。それまでの間、幅広い関税措置はユーロ圏その他、対米輸出国の成長率を押し下げ、ユーロ安につながるはずだった」
4月2日以前から、米国株の下落の一方、米国債10年物相場が上昇(利回りは下落)していた。株を売って安全資産の国債を買う動きが強まっていた。ここまでは、通常みられる資産の移動である。ところが、相互関税発表以降は、株も債券も同時下落というパニック状態に陥った。資金が、海外流出したのだ。相互関税が、米国経済へ破滅的影響をもたらすと懸念された結果である。
(2)「関税措置による為替実効レートの変動を予測する当社のモデルは、報復措置がなければドルは1%上昇し、報復措置があれば小幅に下落すると予想していた。ユーロは前者の場合に1%、後者では0.7%、それぞれ下落するはずだった。実際に起こったことは何か。ドルは4%余りも下がってユーロは2.8%跳ね上がったのだ。関税はインフレをもたらすはずなのに。関税は経済成長率を低下させて実質利回りを押し下げるはずなのに、5年物国債の実質利回りは上昇した」
米国は、関税による単純なインフレでなく、相互関税で物価高の不況という最悪のスタグフレーションに陥るとの見方が強まった。こうして、株価も国債も同時下落という滅多に起こらない事態が発生した。トランプ政権への不安が、一挙に吹き出た感じである。
(3)「経験豊富な投資家なら、このパターンになじみがあるだろう。これは、投資家がある国の政府とその債務返済能力への信頼を失った時に起こる新興国市場危機の典型例だ。その結果、資本は逃げ出し、国債は激しく売られ、リスクプレミアムは上昇する。こうした現象は先進国ではほとんど見られなかった。2022年9月、当時のリズ・トラス英首相が悪名高い「ミニ予算」を発表して世界の投資家からの信頼を失うまでは。現在のドル安と米国債実質利回りの動きは、トランプ氏も「リズ・トラスの瞬間」を迎える可能性を示唆している。世界の投資家は、資本を振り向けるのに最善の場所としてのドルと米国への信頼を失いつつある」
国債暴落は、2年9月に英国でも起こった。それが、米国で起こったことにより、米国とドルへの信頼が失われたことを認識させ、連鎖反応をもたらしたのである。
(4)「資本フローの詳細なデータはまだ入手できないが、日々の上場投資信託(ETF)の資金流出入を見れば、今起こっていることを想像できる。相互関税発表後の米国および欧州の株式ETFを見ると、米国株に特化したETFからは差し引きで大量の資金が流出している一方、欧州株ETFからはほとんど流出していないことが明確に分かる。米国の投資家の間では、米国を除く世界の株式に投資する「国際ETF」への純資金流入さえ起こっている」
資金は、不安な米国から欧州へ移動している。「国際ETF」への純資金流入でそれが窺えるのだ。
(5)「われわれは、米国例外主義の終焉をリアルタイムで目撃しているのかもしれない。しかしこれは、世界の基軸通貨というドルの地位の終わりではない。今目にしているのは、国際的な投資ポートフォリオのリバランスである可能性が高い。過去10年間、世界のポートフォリオは米国資産への集中度合いを高めてきた。例えばMSCI世界株価指数に占める米国株の割合は、2010年の48%から今では73%まで高まっている」
世界の資金が過去10年間、米国へ集中しすぎた。MSCI世界株価指数で、米国株のウエイトは7割強もある。ドル高は、これを反映したものだ。
(6)「今後数年間、ポートフォリオのリバランス期間が訪れ、欧州およびアジア市場に対する米国市場のアンダーパフォーム(指標を下回る)が続くかもしれない。近年どれだけの外国資本が米国市場に押し寄せたかを考えれば、このリバランスはウォール街に痛みをもたらす可能性はある」
これからの数年間は、米国へ集中した資金が欧州やアジアへ分散するとみられる。となると、ドル高=円安が是正される局面になろう。
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