米国は、相互関税を掛けてまでも米国企業の国内「帰還」を促進する構えである。だが、現実はかなり厳しくなっている。米国内に、関連産業が存在しないとか、人材確保が困難という事態が浮かび上がっている。アップルの「iPhone」ですら、国内生産には数年の歳月が必要という現実が待ち構えている。トランプ政権は、何もかも国内の製造業で賄うという「自前主義」に早くも赤信号が灯っている。
『中央日報』(4月15日付)は、「米企業の61%が『米国内生産不可』、81%が『米移転しても自動化する』」と題する記事を掲載した。
全世界に向けた無差別関税が米国の製造業を復興させるだろうというトランプ米大統領の主張と違い、米国の供給網関連業者の相当数は「米国への施設移転の代わりに低関税地域に進出する」という立場を出した。
(1)「CNBC(米国ニュース専門放送局)が、供給網関連業者380社を対象に実施したアンケート調査によると、米国企業の61%が「トランプ政権が米国企業を困らせている」とし、関税により中国の製造施設を失う場合には関税が低い他の地域を模索する意向を明らかにした。米国への生産施設移転を敬遠する理由としては、74%がコスト問題を挙げた。高い人件費などで米国内での生産は事実上不可能だという意味だ。21%が「米国では熟練した人材確保が難しい」と答えた。米国企業ですら米国内生産を「高コスト低効率」の構造と認識しているという意味だ」
トランプ政権は、関税を高めれば海外へ進出して米企業が国内へ戻ると期待している。だが、この思惑は、大きく外れそうである。CNBCの調査によれば、米国企業の61%が中国施設を失う場合には、米国へ戻らず他国へ移転するとしている。これは、生産コストが米国では引き合わないことを示している。
一人当たり名目GDPが、8万3000ドル(2023年)の米国では、人件費の安い中国やアジアで成り立っているビジネスを米国内へ移転させることなど不可能である。トランプ氏は、不動産業のベテランだが製造業では素人である。人件費が、製造業のコストでいかに重要かが分らないであろう。
(2)「実際に質問に答えた企業の18%は、米国への施設移転により現在より2倍の費用が発生するだろうと答え、47%は「2倍以上になるだろう」とした。トランプ大統領は米国への生産施設移転にともなう減税を約束したが、企業は税金問題の優先順位は低く認識していた」
米国へ製造施設を移転した場合、製造コストは2倍と言う企業が全体の18%もある。さらに、2倍以上が47%も存在する。米国企業は、これだけのコスト差がある以上、国内への回帰は不可能であろう。トランプ関税の製造業帰還構想は、実現不可能だ。となれば、別の方法を探さなければならない。米国は、TPP(環太平洋経済連携協定)へ復帰して、安定的なサプライチェーンを構成することだ。
(3)「米国に生産施設を移転しても、すぐ雇用創出につなげるのも難しいことがわかった。今回の調査で米国に製造施設を移転するという企業の81%は米国工場で労働者を雇用するより自動化設備を備えると答えた。また、むしろトランプ政権の関税政策を原因として現在減員を計画しているという回答が47%に達した。関税が適用される品目に対しては61%が「価格を引き上げる」とした」
81%の企業が、「人型ロボット」の活用により、自動化を図るとしている。そうなれば、雇用問題は解決しないままだ。
(4)「企業は、リストラとインフレによる米国の景気低迷を懸念していた。質問に応じた企業の63%が「トランプ政権の関税政策で年内に米国経済が沈滞に陥るだろう」と答え、このうち半分の51%は景気低迷の時期が4-6月期にやってくるだろうと答えた。企業のこうした認識と違い、ホワイトハウス国家経済会議(NEC)のハセット委員長はこの日「10カ国以上が米国に驚くべき貿易協定を提案した。米国に景気低迷はこないものと100%保障する」と主張した」
企業の63%が、年内に米国経済が不況局面入りするとみている。このうちの半分の企業は、4~6月期にデフレへ突入するという悲観論だ。トランプ関税は、早くも岐路に立たされている。
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