テイカカズラ
   

米中貿易戦争で、どちらが高関税の影響を受けるかが話題になっている。米中双方が、大きく傷つけあうことは事実で、米国の受ける傷が深いことも確かだ。だが、中国の習近平氏が「勝者」という見方は偏っている。中国は、大量の農民工が仕事を失う危険性が高まっている。表面だけみた勝ち負け論では、真相が分らないのだ。米中が、交渉して早く争いを収める方が最大の「勝者」となろう。

『フィナンシャル・タイムズ』(4月14日付)は、「米国より強い習氏の「手札」 チーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーター ギデオン・ラックマン」と題する記事を掲載した。

トランプ氏と米政権で通商問題を扱う重鎮らは当初、中国は米国との関税戦争では自動的に不利な立場に置かれるという前提に立っていた。ベッセント米財務長官は8日、米CNBCの番組で中国は「(ポーカーで最も弱い手札に近い)『2のペア』で勝負しているようなものだ。(中略)米国の中国への輸出量は、中国の米国への輸出量の5分の1にすぎない。つまり、彼らこそ不利な状況にある」と主張した。


(1)「トランプ氏とベッセント氏の主張に見られるロジックの誤りは、米ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長が9日、米外交誌『フォーリン・アフェアーズへ』の寄稿で明快に説明した。ポーゼン氏が指摘するように、中国の対米輸出量が米国の対中輸出量より圧倒的に多いという事実は、中国に交渉上の優位性をもたらす要因であって、弱点などではない。米国は、慈善事業で中国から製品を買っているのではない。中国製品を欲しているからだ。つまり、これらの製品が大きく値上がりしたり、店頭から消えたりすれば、困るのは米国人だ

中国の対米輸出量が、米国の対中輸出量より圧倒的に多いことから、中国に交渉上の優位性があるという。これは、中国の現状を知らない謬論である。中国輸出の多くは、労働集約型製品である。コスト安で、輸出が有利であるからだ。すでに米国の145%関税で、商談がストップしている。代替輸入先はアジア各国に広がっている。


(2)「トランプ氏はこれまで、関税は輸出国ではなく輸入国が負担するという事実を常に否定してきた。だがスマホを巡り米関税政策が迷走しているのは、彼がこの事実を暗に認めざるを得なくなった状況を示している。米国で販売されているスマホの半分以上は米アップルの「iPhone」で、その80%は中国で生産されている。この価格が2倍以上に跳ね上がれば、米国の人々は強い不満を訴えるだろう。トランプ氏にとっての「解放の日」は、人々のスマホからの解放を意味したものではなかったはずだ」

iPhoneのような「ハイエンド」(高機能・高価格)は、米国内での生産が不可能だ。ただ、「ローエンド」(低機能・低価格)は、中国以外にどこでも生産可能である。

(3)「スマホとコンピューター機器は、米国が高関税の適用を断念する可能性が最も高い品目だ。だが、これらの品目だけが特別なわけではない。トランプ氏は、この2025年夏が猛暑にならないよう願わずにはいられないだろう。というのも世界のエアコンの約80%は中国製であり、米国が輸入する扇風機の4分の3も中国製だからだ。米政権はクリスマスまでに貿易戦争が終わっていてほしいときっと願うだろう。米国が輸入する人形や自転車の75%も中国製だからだ」

エアコンや扇風機は、中国以外の国でいくらでも生産可能だ。韓国家電メーカーで、代替可能である。大袈裟に考えなくても大丈夫である。


(4)「これらすべてを米国で生産できるだろうか。ぎりぎり作れるかもしれない。だが新工場の建設には時間がかかるうえ、そこで生産される最終製品はさらに高価なものになるだろう。トランプ氏は自分に批判的な報道を嫌悪し、それらが消えることを望んでいる。よって(高関税による)物不足やインフレの痛みを我慢するより、関税免除の対象品目をどんどん追加していく可能性が高い。こうした状況下で中国は待ちの戦術を取る余裕がある。だが中国政府がもし強気に出ると決断したら、その場合、彼らは極めて強力な手段を繰り出すことができる」

中国の3億人(うち製造業は52%)の農民工は、低学歴でハイエンド産業への転換が不可能な人たちだ。労働集約現場で働く以外に生きる道がない人たちである。この厳しい現実を忘れてはいけない。

(5)「中国は、米消費者が必要とする抗生物質の原材料のほぼ50%を製造している。米空軍の主力戦闘機F35の製造には、中国産のレアアース(希土類)が必要だ。また、中国の米国債保有額は米国以外では日本に次いで2番目に多く、市場が緊張状態にある今、これは重要な意味を持つ可能性がある」

抗生物質もレアアースも、中国の特許品ではない。他国の代替生産が可能なのだ。


(6)「権威主義体制は、特に中国共産党により厳格に統制されている中国の場合、経済的混乱がすぐ政治的圧力に変わる米国より、政治的、経済的な苦難にある期間、直面しても耐えられるだけの力が備わっている。習氏が重大なミスを犯す可能性は十分ある。新型コロナウイルス禍への対応がまさにそうだった。だが中国は貿易を巡る米国との対決に長年備えてきており、あらゆる選択肢を考え抜いている。対照的に、米政権は行き当たりばったりで、その場しのぎの対応を取っている。

権威主義国家の限界は、柔軟性に欠ける点だ。一度決めたことは、容易に修正が不可能な硬直社会である。民主主義国家は、トランプ氏の「朝令暮改」にみられるように弾力的である。どちらが危機に臨んで強いのか。権威主義国家でないことは確かである。