a0960_006640_m
   

中国は、南シナ海占拠という実力行使をしている身である。だが、米国相互課税反対では、アジア諸国を束ねて自由貿易の旗手として振る舞っている。「ジキルとハイド」の国際版である。アジア諸国は、中国の本質を見抜いているから、表面的には調子を合わせているが、「本音部分」は疑問付である。中国は、苦しい時の「友達づくり」に励んでいるのだ。

トランプ政権が相互関税で仕掛ける経済威嚇は、もとは中国の得意芸である。中国からは、各国が「苦汁」を飲まされてきたのだ。日本はレアアース、フィリピンはバナナ、台湾はパイナップル、オーストラリアはワインや牛肉などで輸入制限を科せられた。東南アジア各国は、こういう中国リスクを十二分に認識しており、中国の表面的な「甘言」に対して、十分注意すべきだと指摘されている。


『日本経済新聞』(4月19日付)は、「米抜き世界、盟主狙う中国 習近平氏が東南ア訪問で懐柔」と題する記事を掲載した。 

トランプ米大統領が関税の引き上げで他国に譲歩を迫るなか、中国が自由貿易体制の「盟主」になろうと外交攻勢をかけている。習近平国家主席は訪問先の東南アジア3ヶ国で貿易や投資の拡大を促し、懐柔を試みた。米国が自国第一主義の姿勢を貫けば中国につけいる隙を与える。

(1)「習氏は18日、ベトナム、マレーシア、カンボジアへの訪問を終えた。第2次トランプ政権が1月に発足した後、習氏が最初の外国訪問先に選んだのは東南アジア諸国連合(ASEAN)の3カ国だった。いずれも経済の対中依存度が高く、米国が示した相互関税の税率が24〜49%にのぼる。米国から累計145%の追加関税を課された中国にとって、対米輸出の落ち込みを補うためにASEAN市場の開拓は急務だ」

中国が、ASEANから心底「嫌われている」ことは、有識者調査で明らかになっている。最も信頼されている国は日本だ。次が米国。中国は3番目である。南シナ海を不法占拠して軍事基地化している当然の結果であろう。


(2)「習氏は16日、マレーシアのアンワル首相との会談で「団結と協力で共に対抗する」とトランプ関税への共闘を呼びかけた。アンワル氏も、「ASEANはいかなる一方的な関税措置にも賛同しない」と述べ、両国の貿易を増やすと申し合わせた。ベトナムの首都ハノイでは最高指導者、トー・ラム共産党書記長とサプライチェーン(供給網)の連結強化で合意した。ベトナム北部と中国南部をつなぐ複数の鉄道開発が完了すれば両国の物流がいっそう円滑になる。習氏は17日にカンボジアの首都プノンペン入りし、フン・マネット首相と会談した。カンボジアの経済を支えるため、同国の農産物の輸入や中国企業による投資を拡大すると表明した」

ベトナムは、米国へ内々で中国製品の「通過地点」になることを取り締まると告げている。中国へは「面従腹背」なのだ。

(3)「習指導部は、関税政策を巡るトランプ政権と各国の対立を機に自由貿易体制の擁護者を演じようとしている。北京で8〜9日に「中央周辺工作会議」を開いた。2013年10月に開いた周辺外交工作座談会を格上げし、ASEANなど周辺国との相互信頼を強固にする必要性を確かめた」

南シナ海の不法占拠を解決しないで、ASEANなど周辺国との相互信頼強化は不可能である。上辺だけの協力となろう。


(4)中国共産党系メディアによると、周辺国は日本や韓国、ロシア、北朝鮮、中央アジア諸国も含む。習氏は5月に訪ロし、首都モスクワで開く対ドイツ戦争勝利80年の記念式典に出席する。プーチン大統領との会談で経済協力などを議論する。日本に対しては王毅共産党政治局員兼外相を3月に派遣した。中国外相の訪日はおよそ4年半ぶりだ。王氏は日韓を引き寄せて米国との結束を弱めさせるため、日中韓の自由貿易協定(FTA)交渉の早期再開を要求した」

日中韓のFTAを結んだらどうなるか。日本は、中国のダンピング輸出で甚大な影響を受ける。こういうリスクからは遠ざかることがベストである。

(5)「中ロが主導する新興国の枠組み「BRICS」も重視する。加盟国にはブラジルや南アフリカなど米国と距離のある国が多い。習氏はブラジル・リオデジャネイロで7月に開くBRICS首脳会議への出席を検討する。中国が「友好」や「協調」を前面に出す外交を展開するのに対し、米国は軍事・経済力を背景に同盟・有志国にも圧力をかけるディール(取引)に軸足をおく。トランプ外交では各国の首脳らに訪米を促し、譲歩を迫る姿勢が際立つ」

米国は、中国の宣伝戦出で遅れを取っている。だが、米国に言わせれば相互関税のディールによって、「脱中国」を迫るとしている。米国は、上手の戦術を行う。