空洞化した米国製造業
トランプ独特の経済観
自由貿易原則を否定へ
西側6割の経済シェア
これまでの歴史において、高関税は成功した試しがないほど難物である。世界経済を縮小させる、破滅型の政策であるからだ。こうした反省に立ってその都度、自由貿易が復活し世界経済が発展してきた。自由貿易は、各国の善意の上に成り立っている。比較生産費原理によって、それぞれの国が得意の産業を伸して貿易を行う。こういう仕組みである以上、政府の介入を前提にしていないのだ。
中国が、WTO(世界貿易機関)へ加入した2001年以降、世界の貿易事情に異変が起こった。中国政府は、補助金をおおっぴらに投入し、比較生産費原理を大きく歪められる結果になった。中国は、瞬く間に「世界の工場」になって、世界貿易を揺さぶる存在にまで成長した。問題は、2012年に習近平氏が中国国家主席に就任して、世界覇権を狙う行動を見せ始めたことだ。こうして、世界の自由貿易体制が中国に利用されるシステムと化したのである。
世界の基軸通貨国である米国が、危機感を強めることになったのは当然であろう。自由貿易体制が中国に「乗っ取られた」形になり、ダンピング輸出が各国経済を直撃する事態となったからだ。しかも、中国はロシアのウクライナ侵攻を支援しているので、中ロが世界秩序の崩壊を目指していると受け取られることになった。
米国が、一方的に各国へ相互関税を課し、中国には145%(中国によれば245%)の高関税を突きつける結果になった。これは、米中貿易の「デカップリン」(断絶)を意味する高い壁である。米国は、中国を排除する一方、同盟国・友好国へも相互関税(現在は、90日間の一時停止中)を掛けることによって、「製品輸出に代わり工場進出」迫る異常行動に出ている。工場が米国へ移転すれば、相手国は「産業空洞化」になることを顧みない米国の「暴挙」である。米国は、ここまで強引に振る舞い、製造業の復活を目指している。
空洞化した米国製造業
1991年のソ連崩壊後の「平和の配当」は、米国製造業空洞化の始まりでもあった。製造業は、人件費の安い海外へ移転したのだ。この間、すでに35年の歳月が経っている。米国は、逆に産業空洞化に見舞われた。中国の「一人っ子政策」も35年も続いた結果、合計特殊出生率が急減速に見舞われている状況と酷似している。四半世紀以上の超長期にわたり、海外へ渡った米国製造業が、簡単に米国へ高関税を理由に回帰できるはずがない。そういう意味で、トランプ政権の高関税政策には本質的な見誤りがある。
CNBC(米国ニュース専門放送局)が最近、製造業関連企業380社を対象にアンケート調査を実施した。これによると、米国への生産施設移転を敬遠する理由としては、74%がコスト問題を挙げた。高い人件費などで米国内での生産は事実上不可能だという意味だ。また、21%が「米国では熟練した人材確保が難しい」とも答えた。米国企業ですら、米国内での生産を「高コスト低効率」構造と認識している。
トランプ政権の「机上プラン」では、こういう現実にまで目が届かないのだろう。米国の一人当たり名目GDPは、約8万3000ドル(2023年)である。人件費の安い中国やアジアで成り立っている製造業が、米国内へ移転させることなど不可能であることは分りきった話なのだ。米国で成り立つ製造業は、この名目GDPを上回る人件費コストを払える業種だけである。トランプ政権は、この厳しい現実を頭に入れて置くことが必要だ。
トランプ政権は4月11日(米時間)、相互関税の対象からスマートフォンなどを除外すると表明した。米アップルのiPhoneなどの大幅な値上がりを回避し、消費者の反発を抑える狙いとみられる。4月5日にさかのぼって適用する。スマホの部品となるタッチパネルなどのほか、パソコンも除外した。ただ、半導体には関税を課すという手の込んだことを行い、体面を繕っている。
iPhoneの部品は、40を超える国々で製造され、最も複雑で専門的な部品は約6カ国から調達されているという。現在、これらの部品の多くが中国(あるいはその近く)で製造されており、台湾、韓国、日本は中国に近いという利点がある。米国が、iPhoneを国内で組み立てるには、少なくとも主要部品の製造の一部を米国へ移すことだ。米国で、今後3~5年以内に組み立て作業を始める場合でも、アジア製部品に頼る必要があるとされる。iPhoneが大幅な値上がりになることは確実だ。
トランプ独特の経済観
トランプ氏は、不動産業のベテランであるが、製造業で素人である。人件費が、製造業のコストでいかに重要かが分らないであろう。トランプ氏の「経済観」を如実に示す「逸話」が残されている。『ブルームバーグ』(4月17日付)が報じた。
トランプ氏の最高戦略責任者を務めたスティーブ・バノン氏は最近、次のように語った。「トランプ氏は、不動産開発業者の視点から米国を見ている。これが外国に高関税を課そうとする強力な衝動であることを説明する。トランプ氏が発信しているメッセージは、米市場は最高の不動産なのだから、その市場にアクセスするにはプレミアムを支払わなければならないというものだ」としている。
トランプ氏は、確かにこれに類した発言をしている。外国は、米国の膨大な市場へアクセス(輸出)メリットが大きい以上、輸出国は米国へ高い関税を払えというものだ。これは、不動産ビジネスの「会員権」と同じ発想である。高い会員権は、それなりの高いメリットが得られる以上、外国が会員権(高い関税)を払うのは当然という認識である。(つづく)
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