世界の自動車販売戦線は、トランプ関税で大揺れ状態である。トヨタ自動車は、関税によるコストアップで、26年3月期純益は35%減の予想と厳しい線を打ち出している。だが、世界販売台数は系列企業を含めて1120万台と2%増を見込む。今年から本格化するEV(電気自動車)は、これまで、26年時点で年150万台の販売計画を掲げてきた。その後、この販売計画の見直しを進めており、「80万台」への引下げも予想されている。
『日本経済新聞 電子版』(5月8日付)は、「トヨタ『国産300万台』死守 供給網維持へ輸出先を多様化」と題する記事を掲載した。
トヨタ自動車の世界戦略が転機を迎えている。日本国内ではものづくり技術と雇用を維持するための「生産300万台体制」を掲げ、米国などに車を輸出して稼いできた。トランプ米政権の関税策は同国内での生産を求める。海外生産を進める一方、日本からは輸出先の見直しを検討するなど、中長期の成長に向けた策を練り始めた。
(1)「トヨタの佐藤恒治社長は8日、「揺るがず守っていきたい」と、国内300万台体制について都内で開いた決算会見で強い口調で語った。「国内のサプライチェーン(供給網)を守りながら輸出していく。ものづくり産業に重要なポイントで、ぶれずに取り組む」と述べた。トヨタの2025年3月期の地域別の営業利益を見ると、日本が3兆1587億円と全体の6割超を占める。工場の稼働停止があった北米(1043億円)やアジア(8939億円)などと比べて圧倒的に大きい。国内向けだけでなく輸出でも収益を上げている」
トヨタは、米国の高関税でも日本国内生産300万台体制を維持する。今年3月期は、国内で3兆1587億円と全体の6割超の利益を稼ぎ出した。北米は1043億円である。日本国内で利益を確保する戦術に変わりない。
(2)「25年3月期に323万台を国内で生産し、6割にあたる194万台を海外に輸出した。うち米国向けには54万台と全体の28%を輸出し、高級車の「レクサス」や強みのハイブリッド車(HV)など好採算の車種も含まれる。米国で人気のトヨタ車は、メーカーがディーラーに支払う販売奨励金(インセンティブ)も抑えられている。米コックス・オートモーティブの調べでは、3月時点のブランド別でトヨタが取引価格の2.9%、レクサスが4.6%と業界平均の7%を下回る。宮崎洋一副社長は「バックオーダー(受注残)も抱えており、すぐさま国内体制を見直すことはない」と指摘した。円安も輸出で稼ぐトヨタの利益を支えてきた。25年3月期は為替が5900億円利益に寄与した」
25年3月期は、323万台を国内で生産し、6割にあたる194万台を輸出した。国内で集中生産することで利益を上げる形だ。この体制は、トランプ関税でも守る。
(3)「こうした強さがトヨタの稼ぐ力を支えてきた。営業利益率は25年1〜3月期で9%と、米ゼネラル・モーターズ(GM)の7.6%や独フォルクスワーゲン(VW)の3.7%を上回る。トランプ関税は、輸出を軸に販売するトヨタの世界戦略を揺るがす。東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは、トヨタが何も対策を打たない場合、世界販売への影響や円高が営業利益ベースで年間約1兆7000億円の減益要因になると試算する」
トヨタは、26年3月期は連結純利益(国際会計基準)で3兆1000億円と35%の減益と大幅になる。自動車生産は堅調なものの、円高やトランプ米政権の輸入車に対する関税政策が重荷となるからだ。日本国内での生産300万体制は維持する。研究開発にとって、不可欠という認識である。売上高は、前期比1%増の48兆5000億円、営業利益は21%減の3兆8000億円を見込む。それでも、売上高営業利益率は7.8%と高水準である。25年3月期の売上高営業利益は、10.0%であった。26年の営業利益率は、世界他社からみれば羨ましがられる水準だ。
(4)「コスト増に対して、トヨタも販売価格への転嫁を視野に入れる。ただ、一大需要国の米国にも景気減速のリスクがくすぶり販売台数の減少という形で逆風となりかねない。中国は、米国に対して対抗姿勢を鮮明にするなど、保護主義に動く国が増えてきた。トヨタは世界各地で現地化を一段と進められるかがカギとなる」
トランプ関税の影響を少なくするには、米国の現地生産を増やすことだ。トヨタはこれまで現地生産を進めてきた。17年から21年の第1次トランプ政権下では、マツダと共同でアラバマ州に工場を建設すると決めた。足元では4月にウェストバージニア工場に追加投資すると発表した。トヨタは地域別の偏りが少なく、最も多い米国でも全体の2割程度である。トランプ大統領は、米国内での生産を求めている。
トヨタは、日本国内が世界販売の15%を占めるが、生産では33%に上る。トヨタの宮崎副社長は、「日本の自動車メーカーの輸出で約20兆円の外貨を獲得している。24兆円の資源・エネルギーの輸入分の8割を補っている」と自動車輸出の重要性を強調する。日本にとって、自動車産業は極めて重要な産業だ。
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