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日産自動車は9日、同社では国内初となる電気自動車(EV)電池工場の計画を断念すると発表した。業績不振を受け、巨額投資は難しいと判断したもの。トヨタ自動車も、国内電池工場の建設延期を決めた。このことから、国産電池の供給網の整備が瀬戸際に追い込まれているとの悲観的報道が出てきた。これは、世界的なEV需要の落込みを反映したものである。中国電池メーカーは、いずれも大赤字に落込むほどである。

『日本経済新聞 電子版』(5月9日付)は、「瀬戸際の国産EV電池、日産とトヨタが断念・延期 経済安保に打撃」と題する記事を掲載した。

日産の平田禎治執行役は9日、「短い期間でこのようになったことをおわびしたい」。自治体への報告に訪れた福岡県で取材に応じて陳謝した。業績不振を理由に挙げて、「改めて投資額も精査し判断した」と釈明した。日産は1月に自治体と立地協定を結んだばかりで、わずか3カ月で断念に追い込まれた。


(1)「電池は、EVの中核部品にあたる。生産コストの約3割を占め、価格競争力を左右する。日産はリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池の生産を予定していた。25年度に着工し、28年度中にも軽自動車のEVなどに搭載する方針だった。LFP電池は従来の電池より生産コストを3割程度減らせる。中国EV大手の比亜迪(BYD)が内製化で先行しており、世界のEV市場で生き残るためには国産電池の量産が不可欠だった」

リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池は、本命電池ではない。全固体電池こそ本命である。日産が、こういう「亜流電池」生産を取り止めるのは賢明な選択であろう。いずれ忘れ去られる電池であるからだ。BYDも、EV不振で戦略変更を迫られている。

(2)「EV電池の投資負担は大きい。日産の投資額は約1533億円で、経済産業省から最大約557億円の助成を受ける計画だった。補助金でもなお業績不振で投資余力が乏しく、工場計画の断念を迫られた。EV電池は、トヨタ自動車も今春に福岡県で計画する工場の建設の延期を決めた。トヨタが「次世代EV」と位置づけるモデルへ搭載する電池の製造を予定していた。

トヨタは、EV需要の落込みに合せた柔軟な措置である。トヨタが、資金的な事情で延期したわけでなく、全く懸念する必要はない。そう言っては失礼だが、この記事は「騒ぎすぎ」という印象である。


(3)「相次ぐ国産電池工場の断念や延期は、自動車メーカーの成長戦略のみならず、国が掲げる国産電池の供給網の整備にも大きな影響を与える。経産省は30年までに蓄電池の国内生産能力を年150ギガワット時に増やす目標を掲げてきた。経済安保の観点から国内での生産を重視してきた。経済安全保障推進法に基づき補助金を出し、これまでに蓄電池や部品・素材生産など約30件を認定している。政府の後押しもあり国内生産基盤は120ギガワット時まで伸びる見通しだったが、日産の撤退で120ギガワット時を下回る。経産省の目標達成にも影響が及びそうだ」

経産省が、30年までに蓄電池の国内生産能力を年150ギガワット時に増やす目標は、EVが順調に伸びるという前提の話である。そのEV需要が,大きな屈折点にさしかかっている以上、未達は当然である。過剰設備を抱えるよりも傷が浅くて結構である。


(4)「パナソニックホールディングス(HD)の電池子会社パナソニックエナジーは、27年以降からSUBARU(スバル)やマツダへの供給を始める。スバルとは共同で463億円を投じて群馬県内に工場を新設して、28年度にも生産を始める。日産とトヨタが電池工場の計画を見直すなか、中堅のスバルが投資に耐えられるかが焦点となる」

27年以降になれば、EV需要も回復するであろう。SUBARU(スバル)やマツダへの供給には問題ないであろう。要は、EVの世界需要の動向が電池需要を決めるのだ。その点で、中国電池メーカーも同じ状況にある。日本だけの悲観論は当らないのだ。