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米国の145%関税が、中国経済の息の根を止めるほどの悪影響を与え始めた。スイスで開かれる米中貿易交渉では、強気を通すことが困難な情勢になっている。中国外交部が、扇動した「米国への徹底抗戦」は、どうやら国民へ塗炭の苦しみを味わわせる事態になりそうだ。4月の対米輸出額は、前年比21%の急減だ。25年GDP成長率は、2020年コロナ期並みの3%見当へ落込みそうである。大惨事となろう。

『日本経済新聞』(5月10日付)は、「中国、関税で対米輸出急減 外資の投資にも重荷 4月21%減、駆け込み需要一転」と題する記事を掲載した。

中国税関総署が9日発表した4月の貿易統計(ドル建て)によると、対米輸出額は前年同月比21%減だった。トランプ米政権による145%の対中関税が直撃した。関税は外資企業による新規投資の重荷にもなっている。


(1)「4月の対米輸出は330億ドル(約4兆7800億円)で、減少率は2023年7月(23%減)以来の大きさだった。3月の対米輸出は相互関税などの適用前に駆け込み需要が発生したためプラスだったが、そうした効果もなくなった。米国は4月に対中追加関税を145%に引き上げた。中国も同時期に報復措置として125%の対米追加関税を発動した。双方が100%を超える高い関税をかけ合う状況が続いている」

なだかんだと言ってみても、中国輸出における米国市場がどれだけ大きいか。4月の対米輸出の落込みが、これを証明している。米国に対しては、「物を買って貰うという」謙虚さも必要のようだ。「徹底抗戦」を叫んだのは、いささか行き過ぎであった。

(2)「9日発表の貿易統計の速報段階では国・地域ごとの輸出品目の詳細は公表されない。ただ輸出品目全体をみると米国向け輸出が多い商品で減少が目立った。スマートフォンは前年同月比で2割減り玩具も7%減少。家具も前年同月を下回った。輸出の落ち込みは、経済全体に影響する」

中国の対米輸出は、労働集約品が極めて多い。この輸出が止まれば、中国の町工場は干上がることになるのだ。現に、5月に入って一斉に休業状態の零細企業が増えている。


(3)「伊藤忠総研の玉井芳野主任研究員は関税引き上げによる対米輸出の落ち込みで、輸出企業の不振や内需への波及も含めて中国の経済成長率を3ポイントほど押し下げると試算する。巡航速度の成長率が5%程度と仮定すれば、トランプ関税の影響で26年末にかけての成長率は2%ほどに落ち込む。新型コロナウイルス禍の初期に経済が混乱して2.3%成長にとどまった20年並みの低成長に陥る可能性がある」

対米輸出の落込みが、これから26年末にかけて、中国GDPを2.3%まで引下げるという予測も出てきた。中国は、失業者が一段と増える見込みで、彼らの苦悩がいかほどかと察せられる。中国には、まだ米国と真っ正面から争う力が備わっていないことを証明している。

(4)「4月の対米輸入は13.8%減の125億ドルで2カ月連続のマイナスとなった。中国による対米関税が響いたが、米ブルームバーグ通信は中国が米国産の医薬品や化学品の一部を関税対象から外したと伝えている。約400億ドル相当分の関税は実際には払っていないといい、輸入の減少幅が輸出に比べて小さな一因とみられる」

4月対米輸入のうち、約400億ドル相当分の関税は免除された模様だ。国内産業を守るためだ。こっそりと、「高関税」を撤廃している。


(5)「米向け輸出が急減速する一方で他の国や地域への出荷は増加した。最大の輸出先である東南アジア諸国連合(ASEAN)は前年同月比21%増えた。欧州連合(EU)と日本向けもそれぞれ8%増えた。米国以外への輸出を増やしている。世界貿易機関(WTO)は4月、米国以外への中国製品の輸出が4~9%増えると予測した。中国は不動産不況に伴う内需不足が長引いていて、国内で余った製品を海外市場に安くまわす「デフレ輸出」が強まる可能性がある」

米国へ輸出できない分は、EUや日本へ流れている。国内の過剰生産分を捌くには、これしか手がないのだ。

(6)「米中の関税競争は外資の対中投資の重荷になっている。中国国家外貨管理局が9日発表した1~3月の国際収支によると、外資企業の直接投資は147億ドルの流入超過だった。工場新設など新規投資分が撤退や事業縮小に伴う資本の回収分を上回ったものの、低水準が続いている。1~3月は前年同期と比べると3割ほど増えたが、ピークだった22年1~3月の2割にも満たない状況だ。経済低迷やスパイ摘発への懸念にトランプ関税が追い打ちをかけた。24年は4~6月と7~9月が流出超過だったが、10~12月は流入超過に戻っていた」

米国の145%関税は、中国へ進出している海外企業にも痛手だ。これは、対内直接投資を減らすことになるので、中国にとっては二重の損害になる。


(7)「中国では外資の事業縮小が目立つ。TOTOは4月に北京市と上海市の衛生陶器の製造拠点の閉鎖を発表した。生産能力を4割減らし、稼働率の向上をめざす。米ゼネラル・モーターズ(GM)は2月に上海汽車集団と合弁で手掛ける遼寧省瀋陽市の工場を閉鎖したと明らかにした。米中は10日からスイスで貿易問題に関する閣僚級協議を実施する。関税が解消されない状況が長期に及ぶと、企業が中国国内の工場などを他国へ移転する動きが加速する恐れがある」

外資企業の事業縮小が目立つ。TOTOやGMが決断した。これに伴い、解雇者が増える。中国の労働事情は悪化の一途である。