米中関税戦争が、あっさりと幕を引く形になった裏で,習近平氏の威信低下が囁かれている。「最後まで戦う」と威勢が良かっただけに、「裏に何かがある」と疑惑の目を向ける見方が現れた。もっとも、米国こそ予想外の大幅譲歩という意見もある。これは、米国が大幅に吹っかけて中国を混乱させ、譲歩させたという見方に繋がっている。
『時事通信オンライン』(5月13日付)は、「大物親中派、異例の習主席批判◇威信低下を反映か」と題する記事を掲載した
中国共産党政権と友好関係を保ってきたシンガポールの前首相夫人が、インターネット上で習近平国家主席を批判する姿勢を見せて、物議を醸している。話題になっているのはリー・シェンロン・シンガポール上級相(前首相)夫人のホー・チン氏である。政府系投資会社テマセク・ホールディングスの最高経営責任者(CEO)を長く務め、中国に対する巨額の投資を実行した。今も、同社傘下で社会貢献活動を担うテマセク・トラスト会長の座にある。
(1)「ホー氏は4月21日、習主席の東南アジア3カ国歴訪に関するポーランド人ブロガーの論評(同18日付)を自分のフェイスブックに転載した。その論評は対外強硬派の習主席を「ギャング」「マフィアのボス」と形容し、次のように批判した。
1)習主席がこれまで圧迫してきた東南アジアの歓心を買おうとしているのは滑稽に見え、中国の置かれた状況がいかに悪いかを示している。
2)中国は国際法に反して南シナ海の大半の領有権を主張し、軍事施設を造り、海警により他国船舶の航行を妨げている。
3)中国は多くの外国企業の自国進出を禁じているほか、世界貿易機関(WTO)加盟に当たって、国の企業補助金や知的財産権法規、法的公正、貿易の法的障壁廃止などに関して確約したことを守ってこなかった。それが今は「保護主義は悪い」と言っている。
4)中国の「一帯一路」は、参加国を債務のわなに陥れたり、ダンピング輸出を促進したりするもので、実際には役に立っていない」
シンガポールの前首相夫人ホー氏は、あえて自己のSNSに習近平批判の投書を添付して、「同感」の意を示した。
(2)「要するに、習主席は他国に対して横暴に振る舞ってきたのに、自分が苦しくなったから協力を求めるのは身勝手過ぎるという厳しい意見だ。ホー氏はわざわざ、これを紹介したので、賛同したということだろう。親中派の要人が習主席批判に公然と加担したことは大きな反響を呼んだが、ホー氏は何の釈明もしていない」
シンガポールは、親中派である。その要人が、公然と習主席批判に「賛同」しているのは、習氏の威令が落ちている証拠だ。
(3)「ホー氏が北京の清華大学の経済管理学院と密接な関係にあることが、この件をより複雑にしている。清華大は朱鎔基元首相、胡錦濤前国家主席、習主席らを輩出した名門校。その経済管理学院は、初代院長だった朱元首相が「創始名誉主席」、習政権で共産党中央規律検査委員会書記や国家副主席を歴任した王岐山氏が名誉主席の座にあることから、特に有名だ。ホー氏は長年、シンガポール経済界の有力者として北京の清華大学の経済管理学院を支援してきたので、朱、王の両氏と旧知の間柄であると思われる」
ホー氏は、北京の清華大学の経済管理学院と密接な関係にある。清華大は朱鎔基元首相、胡錦濤前国家主席、習主席らの母校だ。その経済管理学院は、初代院長だった朱元首相が「創始名誉主席」である。朱鎔基氏や胡錦濤氏は経済改革派である。反習氏に分類される。ホー氏は、こういう関係から「習政権は長く続かない」という感触を得ているのであろう。
(4)「昨年後半から、習派が劣勢になっているという政局変化の裏に、有力長老たちの意向が影響しているとの説が流れている。ホー氏の行動は、それに関連している可能性がある。ホー氏は4月3日にも、香港の大富豪として知られる実業家、李嘉誠氏と共にシンガポール医療支援の発表会を開いて、注目された(李氏はオンライン参加)。3月中旬以降、李氏の企業が、パナマ運河港湾事業を米国企業に売却したことで中国の香港担当部門から批判されている。その中で、李氏の政治的健在のアピールに手を貸した形となった。同部門の責任者は、香港民主派を徹底的に弾圧している習主席側近の夏宝竜氏である」
ホー氏は、香港の大富豪である李嘉誠氏と共にシンガポール医療支援の発表会を開いた。李氏は、習派と距離を置いているとされる人物だ。
(5)「これらの動きから、ホー氏は幅広い中国人脈から得た情報に基づいて、「習主席や習派と対立しても、テマセクやシンガポールに悪影響はない」「反習派に加担した方が今後、特になる」と考えたように見える。習主席に近い高官が次々と失脚したり左遷されたりして、習派が落ち目なのは事実。しかし、習氏の党総書記・国家主席としての任期(3期目)はまだ2年半~3年もあり、今期で引退することが確定したわけでもない。ホー氏は自分の判断によほど自信があるのだろう」
華人社会は、濃密な人的ネットワークで結びついている。ホー氏は、このネットワークによって、「習政権が長くない」と気づいているのかも知れない。
(6)「中国政府は、トランプ関税に対して徹底抗戦を叫び、交渉を拒絶していたのに、5月に入ると、「米側の態度を評価中」と態度を軟化させ、さらに、習主席側近の何立峰副首相がスイスでベセント米財務長官との会談に応じて、腰砕けとなった」
米国側は、スイスの米中関税協議が「予想外のスピードで合意に達した」と驚きの表情を見せた。中国が、腰砕けになったことを臭わせる発言だ。中国は、会談冒頭から「妥協姿勢」をみせていたのだろう。
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