米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が、2020年に始めた日本の大手商社5社への投資は、今や約3兆7100億円の価値となっている。そのきっかけは、東洋経済新報社が発行する『会社四季報』であったという。バフェット氏は、12~13歳のころから株式投資に関心を持ち始め、有価証券報告書を読むのが「趣味」というほどデータを重んじる。それだけでない。その企業の経営者にも関心を寄せる、立体的投資スタイルを確立した。
バフェット氏は、中国のEV(電気自動車)企業のBYDに早くから関心を寄せて投資対象にしてきた。だが、2022年8月から持ち株の一部売却を始めた。23年以降も続いている。その理由は説明されていないが、バフェット氏は、「中国に不安を感じ始め、日本へ信頼感を深めた」と述べている。BYD株売却の理由は、この辺にあるのだろう。
『ブルームバーグ』(5月14日付)は、「バフェット氏の商社投資、会社四季報きっかけ」と題するコラムを掲載した。
バフェット氏は、「2000~3000社ほどの日本企業が載っている小さなハンドブックを読んでいたが、その中に、ばかげたほど安値で売られている商社5社があった。それで約1年かけてそれらを買い集めた」。ネブラスカ州オマハで開かれた株主総会で語った。バークシャー・ハサウェイの最高経営責任者(CEO)を年末に退任すると発表する直前のことだ。つまり、日本の個人投資家と同じ方法で銘柄選別をしたわけだ。小さなハンドブックとは『会社四季報』である。
(1)「これまでバフェット氏は主に、投資そのもので語ってきたが、最近の発言からは日本投資について幅広く知られるべき幾つかの教訓がうかがえる。このところ、ソフトパワーやインバウンド観光で日本に注目が集まっているとはいえ、人口動態や医療制度への取り組み、豊富な投資機会など、まだまだ日本には十分認識されていない部分がある。バフェット氏が指摘するように、日本はiPhoneやコカ・コーラの販売だけでなく、音楽では世界2位、映画では3位の巨大市場だ。パチンコ産業でさえ、ラスベガス全体のカジノ収入の10倍を稼ぎ出している」
日本は、創業200年以上の「老舗」が、ゴロゴロ存在していると世界で注目されている。これに共通しているのは、「三方よし」(売り手よし・買い手よし・世間よし)とする近江商法が息づいていることだ。「細く長く」という商法が世間に受入れられてきた。バフェット氏は、こういう近江商法の日本企業に着目したのだろう。インバウンドは、観光公害といわれるほど、急増している。日本への関心が高まっている。
(2)「日本に長年投資してきたミッション・バリュー・パートナーズのアンドリュー・マクダーモット氏によると、バフェット氏は中国投資熱が高まったころ、「日本企業に安心感を深める一方、中国には不安を抱くようになった」という。マクダーモット氏はブログで、バフェット氏が12年に「世界中のどこよりも日本に投資したい」と語っていたと明かした。これだけでは足りないという人は、日本の国際的な立ち位置にも注目すべきだ。日本は自由貿易と公正な司法を掲げる戦略的に重要な国家。今や貴重な一国とも言える。バフェット氏はまた、日本銀行の追加利上げといったマクロ経済的な要因があっても、日本投資を続ける意向を示している。参考にしたいところだ」
バフェット氏が、12年に「世界中のどこよりも日本に投資したい」と語っていたと言う事実が明かになった。バフェット氏は、海外企業を評価する視点にその国の経済的バックグランドを重視していることがわかる。
(3)「日本を知らずに日本に対して不満を抱く多くの人々とは異なり、バフェット氏は日本が独自の文化を持つ国であり、こうした違いこそが日本という国とその企業を魅力的にしていることを理解している。大手日本企業の成功は、独自性があるからこそ成し遂げられたものであり、それが妨げになったわけではない。例えば、トヨタ自動車は投資家が求めた電気自動車(EV)への全面移行に抗い、ハイブリッド車を重視することで5年連続、世界販売トップの自動車メーカーとなった。任天堂もまた、自社製ハードウエアをやめモバイルゲームに注力すべきだとの圧力を退けた。結果、家庭用ゲーム機「スイッチ」で大成功を収め、株価は上場来高値に近い水準だ。これらの企業は、株主最優先でないかもしれないが、長期視点の投資家に報いてくれる持続可能なブランドを築いている」
トヨタ自動車のEVへの取組みは、他国からみれば遅れていた。これは、主流のリチウムイオン電池の技術的欠陥を熟知し、次世代電池「全固体電池」開発に全力を挙げるという王道を歩んだ結果である。この戦略は見事に的中して、世界の名だたる自動車企業が塗炭の苦しみに直面している一方で、トヨタはHV(ハイブリッド車)で高収益を上げている。
(4)「『彼らが築き上げてきたものを変えるつもりは一切ない。大成功しているからだ。われわれの主な役割は、ただ応援して拍手を送ることだ』。日本市場では長期的な視点が不可欠だ。バークシャーのように数十年単位でみる必要はないとしても、急速な変化を期待すれば、失望するだけだ。バフェット氏に続きたいのであれば、優れた経営陣を見つけて、指図するのではなく、「応援して拍手」することが肝心だ。日本は、外部の株主の声を受け入れつつあるが、短期的な利益を狙って経営陣と対立するのではなく、長期的に共に歩む投資家こそ成功しやすい」
日本企業は、長期的視点で経営している。短期志向ではない。「ゴーイングコンサーン」(継続企業の前提)という近江商法が生きている。息の長い技術開発に取組んでいるのは、こういう長期視点の経営方針からだ。
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先人が築いてくれた、民(たみ)に優しい日本の商道徳は永遠で有って欲しいものです。
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