中国は、今回の米中関税交渉で米国が115%もの関税率を引下げたことで「大勝利」を宣伝している。中国政府系シンクタンク、中国社会科学院で米国経済を研究する羅振興氏は、中国メディアへ「中国が対抗措置をとるなか、米国が先に降りてきて積極的に中国との話し合いを求めた」と指摘するほどだ。
その有力根拠が、中国が生産で世界シェアの約7割を占めるレアアース(希土類)という武器を持つことだ。レアアースの製錬で、中国は世界シェアの約9割も占める。レアアースは、兵器やハイテク製品に搭載する高性能磁石などに必要なジスプロシウムやテルビウムなどは、世界が中国に依存している状態だ。それだけに、中国の優位は揺るがないという「自信過剰」に陥っている。
中国へレアアース精錬技術を教えたのは日本企業だ。国内での精錬が、公害問題を引き起すことから日本から鉱石を運び精錬させたのが始まりである。中国が,それだけ環境破壊に無頓着であったとも言える。この中国が、今やレアアースで世界トップになった。実は,レアアース鉱石は、地球上に多く分布している資源である。中国が輸出禁止すれば、他国での生産が可能という現実を知っておくべきである。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月15日付)は、「それほど希少ではない中国のレアアース」と題する寄稿を掲載した。
ドナルド・トランプ米大統領の関税引き上げに対し、中国は一連の報復措置で対抗した。4月4日には他の措置とともに、米国の防衛、エネルギー、自動車産業にとって不可欠な17種類のレアアース(希土類)の一部と、磁石類の一部の輸出を停止した。その事態を受けたメディアの論説では、欧米が抱える脆弱(ぜいじゃく)性に対する深い不安が露呈したと主張した。
(1)「米メディアは苦悶に満ちた反応を見せたが、米国は以前にも同じ状況に置かれ、この事態を乗切っているのだ。中国は15年前、日本と中国が互いに領有権を主張する海域(注:尖閣諸島)を巡り日本と論争になった後、日本に対してレアアースの輸出停止措置を取るとともに、日本を除く世界全体に割り当てるレアアース輸出枠を40%削減した。中国の動きは、先進国全体に警鐘を鳴らすものだった。レアアース価格は急騰し、米製造業者は、風力タービンから精密誘導ミサイルまであらゆるものに重要な役割を果たすレアアースの代替品を求めて奔走した」
当時の日本は、冷静に対応した。ユーザーがレアアースの単位当たり使用量を減らしたのだ。レアアースを使わない磁石まで考案するなどの対策を考案した。
(2)「だが、市場メカニズムが資源をテコにしようとする中国の試みを封じた。2010年代初めに、中国以外からの供給の伸びが加速したのだ。米レアアース生産会社のモリコープが米カリフォルニア州、豪同業ライナスがオーストラリアで既に開発を始めていたプロジェクトが加速し、生産能力は何万トンも増えた。2014年までには、レアアース市場における中国のシェアが90%超から約70%に低下した」
中国は、レアアース市況の急落で苦境に立たされ、逆に日本へ売り込みにきたほど。立場が逆転したのだ。こういう経緯にも関わらず、中国またレアアースを武器に使い始めた。失敗するのは明確である。歴史に学ばない中国の欠陥を表している。
(3)「中国の輸出割当制度にも、驚くほどの穴があることが判明した。生産者は抜け穴を利用し、制限の対象外である最小限の加工を施した合金を出荷した。一方で、生産量の推計15~30%は近隣諸国を通じてこっそり持ち出された。中国政府が何千にも及ぶ小規模の採掘業者を取り締まれなかったことで、禁輸措置は致命的な打撃を受けた。メーカーは、目を見張るほどの適応能力を示した。精錬業者は一時的に代替的な触媒を使い、磁石メーカーはレアアースの使用量を減らせるよう合金を調整した。新たな技術に完全移行するメーカーさえあった。この「需要崩壊」によって、新たな供給態勢の本格稼働が可能になる前に、危機の影響が小さくなった。2011年に急騰していた価格は、急速に危機前の水準に戻った」
中国企業は、あらゆることで「対策破り」の名手である。レアアースでも、「密輸」を始めたのだ。これが、市況低落のテコになった。レアースの「需要崩壊」では、日本企業が先頭に立った。
(4)「この2010年のエピソードは、原材料を地政学的な武器として使う試みの根本的な制約をあらわにした。中国は、レアアースのかなりの市場シェアを維持しているものの、米防衛産業はその依存度を最低限(世界需要の0.1%未満相当)に減らした。武器計画用の在庫は一時的な供給混乱の影響を軽減できる水準で維持されている」
中国のレアアース輸出規制は、原油カルテルと同じで必ず綻びが生じる。「需要崩壊」が起こるからだ。資源カルテルの維持は不可能である。
(5)「レアアースは、比較的希少な鉱物資源になっているため、有用なレアアースを抽出する工程で環境問題が発生する恐れがある。だが、時にはこうした懸念よりも国家安全保障を重視せざるを得ない。米国が半導体、重要鉱物、医薬品原料などのサプライチェーン(供給網)に関する新たな懸念に対処する中で、われわれがより広い視点から思い起こすべきなのは、実態がなかったレアアース危機が、経済的圧力行使の試みに対して、グローバル市場と人類のイノベーションが抵抗できるという証明になったことだ」
米国は、ウクライナと地下資源の共同開発で協定を結んだ。レアアース生産の基地を得たことになる。地下資源の独占化による弊害は、「グローバル市場と人類のイノベーションが抵抗できる」。日本が、すでに証明しているのだ。
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