テイカカズラ
   

米国トランプ政権は、相互関税を押しつけて米国の慢性的貿易赤字を減らす「荒技」を繰り出している。同盟国の日本へも遠慮会釈ない対応だ。この米国にも「弱点」を抱えている。商船の造船能力が、世界の1%しかないという「超危機状態」である。米海軍の軍艦建艦能力に事欠く事態になった。そこで、日韓の造船業界へ協力を求めざるを得ない事態へ追い込まれている。米国は、日韓への相互関税で「鬼の目にも涙」という「慈悲」をみせるかどうか。

 

『毎日新聞 電子版』(5月15日付)は、「トランプ政権、日韓との造船協力は焦り 韓国は『関税カード』に」と題する記事を掲載した。

 

トランプ米政権が、アジア太平洋地域で増強を続ける中国の海軍力への対抗も見据え、衰退した自国の造船業の復興を目指している。商船建造量で世界一の中国はシェアで50%を超えており、米国は同盟国である2位・韓国と3位・日本に協力を強く求めている。韓国側はこの造船業というカードを武器に、米側から譲歩を引き出そうとしている。

 

(1)「アジア太平洋地域で覇権を争う米中は、海軍力でも競争を続ける。米国の悩みは、軍艦建造の基礎となる自国の造船業が衰退して久しいことだ。日本船主協会が英調査会社クラークソン・リサーチのデータなどに基づき作成した資料によると、商船建造量のシェアは23年、①中国(50.9%)②韓国(28.4%)③日本(15.4%)。一方、1970年代まで造船大国だった米国では、補助金の大幅削減や米国内でのコスト増、労働者不足などが影響し、現在のシェアは1%に満たない」

 

世界造船能力で,中国は51%も占める。米国はゼロに等しい1%だ。これは、米国が軍艦建艦において不利であることを示している。このギャップを埋めるのが、日韓(合計で43.8%)の存在である。

 

(2)「米中海軍の艦船数は、22年時点で中国が351隻と、米国の294隻をすでに上回る。中国軍の艦船数は30年には420隻を超える見通し。空母の数や、技術面を含めた海軍の総合力では米国が上回るものの、その差は急速に縮んでいる。米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」のマシュー・フナイオレ上級研究員は3月に発表した論文で「大型船の建造力は軍事力の中核をなし、米中の競争が最も激しい太平洋で特に当てはまる。造船業の成功で中国は急激に海軍を増強させた。米国とその同盟国が中国をけん制する能力は低下している」と指摘した。中国との覇権争いを見据え、トランプ政権はその基礎となる造船業の復活を重視している」

 

米国の造船業の衰退は、海軍力に影響する。米国は今のうちに、日韓造船業界を取り込まないと大変な事態になりかねない。

 

(3)「トランプ氏は、49日には「米国の海洋支配の回復」と題した大統領令に署名。軍用を含む造船業の復活を国家安全保障上の重要政策と位置づけ、同盟国との連携強化や規制緩和の推進などを盛り込んだ。ホワイトハウスには「造船局」を新たに設置した。米海軍は艦艇の規模を54年までに390隻に増やす計画だ。だが設備の老朽化などに悩む米国の造船業を急に復活させ、中国の圧倒的な新造船建造能力に対抗するのは不可能だ。そこでトランプ政権が協力を働きかけるのが、軍艦も含めた造船業で高い技術と経験を誇る日韓だ」

 

米海軍は、艦艇規模を54年までに390隻に増やす計画だ。日韓の協力が不可欠である。

 

(4)「ジョン・フェラン米海軍長官は4月30日、韓悳洙(ハンドクス)大統領代行(当時)とソウルで会談し、「米海軍の即応態勢を強化し、米国の造船産業を再建するには、米韓の造船部門での協力を一層強化する必要がある」と訴えた。韓国政府は、造船を自動車や半導体などと並ぶ主力産業と位置づけて多額の補助金を投入してきた。韓国国防省の朴鎮浩(パクジンホ)・政策諮問委員によると、過去10年で3000隻の商船と軍艦を建造。英国など海外への軍艦輸出の実績も豊富だ」

 

韓国は、過去10年で3000隻の商船と軍艦を建造した。米海軍が、韓国へ注目するのは当然だ。

 

(5)「トランプ政権が目指す「米国内での造船業の復興」を見据え、韓国企業は米国内での拠点づくりも進めている。ハンファオーシャンは、米フィラデルフィアの造船会社を24年に買収した。HD現代重工業も、米空母などを手がける米ハンティントン・インガルス・インダストリーズと4月に業務提携を結んだ。米国は、国内法で軍艦の海外での建造を禁じる。だが、両社は将来的には子会社や提携先を通じた米艦船の建造受注も見据える」

 

韓国造船界は、米国へ進出している。米艦船の建造受注も見据えた動きである。

 

(6)「韓国は、こうした優位性を誇る造船業での対米協力を、米国との関税協議の際にセットで議論し、交渉を有利に運ぼうとしている。韓国は米国から25%の関税を課される見通しで、自動車産業などの打撃は計り知れない。4月24日にワシントンで開かれた米韓の閣僚級協議では、関税問題と造船などの産業協力を組み合わせた「パッケージ合意」を目指すことで一致した。造船を巡る日米韓の協力に、中国は神経をとがらせる。中国政府関係者は「協力が中国に対して向けられたものであれば強く反対する。不公正な競争をもたらしたり、縄張りを作るものになったりすることにも強く反対する」と警戒する」

 

日本は、韓国の動きに合せて米国への協力体制を固める必要がある。これによって、「パーケージ合意」をまとめ関税引下げを図らなければならない。