日産自動車、ルノー、三菱自動車の3社連合は、2018に世界1の販売台数を誇った。かつての「日産のドン」カルロス・ゴーン氏は、保護主義が起こるとは夢にも思わず、グローバル主義を唱え続けた。だが、日産自体は国内生産を基盤に米国へ輸出する,従来型の「輸出企業」でしかなかった。現在は、グローバル主義への寒風が一段と厳しくなり、日産自動車の「グローバル主義」は空中分解し始めている。トランプ関税によって、日産グローバル主義は大きく揺らいでいるのだ。
『ブルームバーグ』(5月15日付)は、「沈みゆく日産、グローバル化の終焉映す-フィックリング」と題するコラムを掲載した。
カルロス・ゴーン氏は2018年、販売実績で世界最大の自動車グループになったことに自信を深め、単一企業体制への統合を視野に入れていた同氏にとって、保護主義は懸念材料ではなかったようだ。しかし、地殻変動はすでに始まっていた。日産の社内では数週間もたたないうちにゴーン氏の逮捕につながる内部調査が開始され、19年には日本からの劇的な逃亡劇が展開された。その後、連合はフランスと日本の分離を試みるも、ほぼ10年にわたり成功せずに引きずっている。
(1)「こうした中、日産が今週発表した24年度決算では6709億円の当期純損失を計上。同時に車両生産工場について27年度までに現在の17から10に削減すると確約した。世界有数の自動車メーカーだった日産は終焉に近づいているのかもしれない。投資家らも同様の判断を下している。日産のPBR(株価純資産倍率)は約0.25倍で推移しており、社債も主要格付け3社全てからジャンク級と評価されている。時価総額は1兆3000億円程度とネットキャッシュの約1兆5千億円を下回っている」
日産の凋落は、本当に胸が痛む話だ。日本の自動車企業として草分け的な存在である。それだけにプライドも高い。今回のホンダとの統合破談は、その高いプライドのもたらした悲劇である。
(2)「日産の最高経営責任者(CEO)に就任したイバン・エスピノーサ氏は、わずか数カ月で再建計画を打ち出した。日産の再建計画は過去5年間で3度目だ。もっとも、この計画は内田氏が6カ月前に発表した前回の取り組みの焼き直しに過ぎず、出血を止めるには不十分だろう。この問題を解決する機会は、内燃エンジンの黎明期以来、世界の自動車業界が最も劇的な変革を遂げていた過去7年間にあった。日産はその期間、ゴーン氏追放を発端とする社内での対立や混乱の対応に追われていた。現在でも2024年度決算短信でゴーン氏の事件を巡る記述が2ページにわたって記されている。エスピノーサ氏が打ち出した中国事業の再建計画も悪い冗談のように思える。中国市場での販売は19年以降でおよそ半減している。エスピノーサ氏はプラグインハイブリッド車(PHV)への注力により立て直そうとしているが、日産はあまりにも後れを取っており、存在感はほとんどない」
過去7年間、日産は内紛で時間を浪費した。時代を遡って元を糺せば、過激な労使紛争が原因であった。戦後から一貫した紛争劇が、日産の体力を消耗させたのである。
(3)「日産は、日本企業である。従業員の45%、製造拠点の約35%を国内で占めているにもかかわらず、国内販売はわずか16%だ。売上高の半分以上は北米で、国内工場で生産された車両の約30%が同市場に輸出されている。トランプ政権による25%の自動車関税は、この取引からの利益を完全に消し去るのに十分だ。ゴーン氏がもたらした1999年以降の日産の復活は、グローバリゼーションによる成功の象徴だった。しかし、その裏でナショナリズムが消え去ることはなかった。日産の失墜には、純粋な事業の失敗に加え、日仏政府間の代理戦争的な側面も大きく影響した」
日産は、国内販売はわずか16%であるにもかかわらず、従業員の45%、製造拠点の約35%を国内が占めた。この実態とグローバル主義は、全く釣り合いの取れない話である。グローバル主義とは、現地生産で現地販売分をカバーすることと理解すれば、内実は全く異なっていた。日産の場合、単なる「輸出路線」と言えるものである。ここに、大きな食い違いが起こった。
(4)「競合企業にとっても、沈みゆく日産の姿を喜ぶ余裕はない。主要な自動車メーカーが自国市場に閉じ込められるような世界は、中国企業以外の主要メーカーにとって厳しいものとなる。中国だけが規模、生産技術、EV分野での技術的優位性を確保し、他を圧倒する可能性があるためだ。この猛攻を食い止める最良の方法は国境を越えて協力することだったが、グローバリゼーションによる成功の象徴だった日産の失墜は、その未来への希望を完全に消し去った。旧勢力が無駄な争いに明け暮れているうちに新たな強国が覇権を握っていくのが世の常だ。国家と同様、自動車メーカーにおいても、このパターンが再び展開されている」
中国EVは、ダンピング輸出で世界市場へ出没している。だが、全固体電池という次世代技術を持たない「特攻隊」的な出撃である。次世代電池が、登場するまでの「EVの露払い」的可能性が大きいのだ。ここは、技術面からグローバル化の本質を見届ける必要がある。現状判断で、明日のEV世界地図は予測できない。中国EV優位論に目が眩んではだめだろう。
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