米国トランプ政権に逆風が吹いている。大手格付け会社ムーディーズ・レーティングスが16日、米国の信用格付けを最上位から1段階引き下げたからだ。政府債務や利払い費が増加していることを理由に挙げている。これが目下、進行中のトランプ減税案へ影響を与えおり波乱含みである。
米下院予算委員会は16日、下院共和党による包括的な税制・歳出法案に反対した。強硬派の保守議員がトランプ大統領の方針に反対した。採決では、民主党議員に加えて共和党4議員が反対票を投じたもの。これら4議員は、メディケイド(低所得者向け医療保険制度)など政府プログラムでの一段の歳出削減を要求している。この要求が通ると、トランプ支持派の低所得層を直撃する。トランプ氏にとって困難な局面である。
『日本経済新聞 電子版』(5月17日付)は、「トランプ減税に格下げの逆風 しわ寄せは支持基盤の低所得層に」と題する記事を掲載した。
大手格付け会社ムーディーズ・レーティングスが16日、米国の信用格付けを引き下げた。トランプ米政権が調整する減税法案にノーを突きつけた。財政悪化の回避に向けて今後有力視されるのは、低所得層の支援削減だ。政権は自らの支持基盤を痛める判断を迫られる。
(1)「連邦議会下院の与党・共和党指導部は12日、減税法案を公表した。2025年末に期限を迎える個人所得減税の延長など、主要政策が詰め込まれた大型法案だ。ホワイトハウスは16日の公表文で「史上最大の減税になる」と説明した。実際には減税の単純延長が大半のため景気刺激効果が限られるうえ、財政悪化には歯止めがかからない」
2025年末に期限を迎える個人所得減税の延長法案の審議である。新規の減税法案ではない。トランプ氏は、これまで減税継続の財源として関税を充てるとしてきた。
(2)「米エール大予算研究所は16日、2025〜34年に政府債務が3.4兆〜5兆ドル(約500兆〜7300兆円)増える内容だとの試算を示した。55年には債務が国内総生産(GDP)比で200%となり「スーダンと日本しか達していない水準」になると警鐘を鳴らした。超党派の「責任ある連邦予算委員会」のマヤ・マクギネス委員長は16日、米格下げを受けた声明で「議会は現在の行動を停止し、崖の縁から離れ、この混乱から脱却する方法を検討し始めなければならない」と警告した」
米エール大予算研究所は、現状のままで推移すると55年の公的債務残高が、GDP比で200%になると警告している。
(3)「ただ、期限の切れる減税は延長しなければ巨額の実質増税となって、高関税政策で強まった景気悪化懸念をさらに増幅させる要因になる。財政改善を強く求める保守強硬派は、減税の圧縮ではなく歳出の大幅削減を求めている。焦点はメディケイドと呼ばれる低所得層向けの公的医療保険だ。法案には、メディケイドの受給者に29年から就労義務を課すなど、全体として支給額が減るような仕組みが盛り込まれた。保守強硬派はこれを前倒しするよう求める」
保守強硬派は、減税の圧縮でなく歳出の大幅削減を求めている。その対象が、低所得層向けの公的医療保険メディケイドだ。
(4)「共和党内の穏健派は、メディケイドの削減をすぐに始めれば26年の中間選挙で逆風になると警戒する。今回の格下げはこうした声を抑え、歳出削減を進めたい強硬派を勢いづかせる可能性がある。トランプ氏は、高齢者向けの公的医療保険であるメディケアや社会保障に加えてメディケイドも削減しないと何度も強調してきたが、軌道修正を図り始めた。16日には自身のSNSに「この法案は米国人の税金を削減するだけでなく、メディケイドから数百万人の不法移民を排除し、真に必要としている人々に保護するものだ」と投稿した。実際には不法移民以外も削減対象になるが、それには触れなかった」
メディケイドの削減は、26年の中間選挙で逆風になる。トランプ支持率が低下している中だけに、新たな不人気な要因を持ち込みたくないであろう。
(5)「ベッセント米財務長官は、7月4日までの法案成立を目指している。下院が5月26日までに可決し、上院での修正協議に進むシナリオだ。ただ、下院採決まで行く手前で、法案はまだ揺れている。下院の予算委員会は16日、法案を否決した。同委員会は近く再採決する予定だが、保守派が法案の修正を強く求めている。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、米国の財政を「持続不可能な状態」と言い切る。債務残高の膨張により毎年の利払い費は国防費を上回る規模となり、今後は高齢化で社会保障費などが膨れ上がる。法案が修正されても、状況は大きく変わらない可能性が高い」
FRBパウエル議長は、米国の財政を「持続不可能な状態」とみている。今後は高齢化で社会保障費などが膨れ上がる。こうなると、高所得者の増税は不可避である。トランプ氏も最近は、反対論を引っ込めている。低所得層向けのメディケイドを削減して、富裕層の増税に手をつけないでは、余りにも不公平であるからだ。
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