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生産カルテルの胴元JA

減反政策の継続は不可能

農家60キロ2.3万円に

主役はいずれ農業法人へ

 

混乱した米価問題は、小泉農相の登場によって大きく局面転換し始めた。5月26日には、政府保有米(21年産米や22年産米)を直接、小売業者(年間1万トン以上の扱い業者50社以上)に売り渡すと発表した。最終の小売価格は、玄米で5キロ当たり2000円見当にするという意欲的目標である。この効果が的面に出て、27日夜には募集を打ち切るほどの盛況である。第二弾は、小規模小売店を対象に再開する方針だ。

 

これまで、政府保有米20万トンを全農(全国農業協同組合連合会:JA)へ売り渡してきたにもかかわらず、小売価格が値上がりし続ける異常事態は解消しなかった。政府はそこで、随意契約によって小売業者へ直接売り渡す「直撃弾」を投げ込んだ。一連のコメにまつわる混乱は、日本農政の政策手詰まりの結果である。

 

農水省は、1971年から2017年までの46年、実に半世紀もの間にわたる減反政策によって、生産過剰状態のコメを消費量に合わせて減らし米価を維持してきた。国内の主食用のコメ需要は、人口減を背景に年10万トンペースで減ってきたからだ。農水官僚にとって、減反政策が米価維持の唯一の政策となっていた。

 

これが、23年のコメ不作によって需要減を前提とした農政の弱点を露呈させた。これまでの「減反による価格維持」政策は、農政の骨格になってきた。ここから「逸脱した」形の政策は論外であった。農水省自らが、コメが足りないと認めることは、半世紀にわたり固守した「減反政策」に反するからだ。こうした硬直姿勢に対して、天候異変で不作になるという、ごく普通の現象を突きつけられた。農政の混乱はここから始まった。

 

23年の夏は、記録的猛暑に襲われた。日本で3割も作付けされている「コシヒカリ」は、寒さには強いが、暑さに弱い品種である。コシヒカリの主産地は、秋田・茨城・栃木などで、猛暑によって品質低下が起ったのだ。米作の3割が「不作」となれば、日本全体でコメ不足に陥って当然であろう。

 

農水省は、前述のような事態が起こっていても、コメの供給不足を認めることはなかった。過去の減反政策を拠り所にして、政府備蓄米を大量放出したり、減反の手を緩めたりすれば、コメの生産量が増え、米価が下がると危惧したのだ。農水省にとって、最も重要なのは米価維持という生産者側の論理に立っていた。ここには、米価の高騰で苦しむ消費者目線はゼロであった。

 

生産カルテルの胴元JA

コメの生産者組織で最大の実力を持つのは、全農である。生産者カルテルの「胴元」と言える存在だ。生産者カルテルとは、複数の企業が市場での競争を回避するため、生産量や価格、営業地域などについて互いに取り決める行為である。これによって、価格がつり上げられて事業者側が利益を得る一方、消費者は安い商品やサービスを購入できないなどの不利益を被る。生産者カルテルは、こういう弊害を伴うので、独占禁止法によって禁止されている行為だ。

 

日本農業は、これまで産業という枠組みで議論されることはなかった。食糧自給率維持という、別枠で取り上げられてきた。農水省が、半世紀も減反政策を続けられた理由は、食糧安全保障という農業保護論に支えられていたもので、日本農業が「脆弱構造」という前提である。産業論という視点でみれば、弱体化した産業を放置せず、体質強化して独立して一本立ちできる産業へ押上げる政策が採用される。不思議なことに、日本農政にはそのような視点がなく、ただ農家を保護して置けば良いという安易なものだった。

 

日本農業は、全農が政治と結びついて最大の「圧力団体」になったことで、産業論という真っ当な視点を奪い去った。選挙のたびごとに有力候補者を支援し、その力を借りて「生き延びる」という消極的な戦術を選択してきた。これが結局、日本農業を弱体化させた大きな理由である。

 

産業保護主義と結びついて、衰退した産業の典型例は米国鉄鋼業である。米鉄鋼労組(USW)は、政治権力と結びつき鉄鋼保護で関税を引上げて「自滅」への道を歩んでいる。かつて世界一のUSスチールが、日本製鉄に合併される時代を招いた背景だ。

 

米国鉄鋼業ですら、保護主義に走れば最終的に衰退する例が見られる。となると、日本農業の中核であるコメの国際競争力は今や、いかにして高めるか新たな視点が求められる。日本農政は、保護主義から脱して競争力強化へ踏み出さなければならないギリギリの段階にきているのだ。今回の「令和の米騒動」は、これを考えるまたとない機会となった。

 

農水省によると、農業を主な職業とする基幹的農業従事者(概数値)は、24年に前年比4%減の111万人で、05年の半数ほどに減っている。このうち、65歳以上の担い手が7割を占めている。今後、後継者不在を理由とした耕作放棄が一気に進む危険性が高まってきた。こういう状況下で、農水省の取っている政策は、ただ「米価を下げたくない」という消極的なもので、これで今後の危機を乗りきれるはずがない。

 

全農は、農家の貯金を殖やすことに主眼を置いている。それには、米価維持から値上がりへ転換させることだ。全農が、今回の米騒動で敏捷に動かなかった背景は、米価値上がり→農家貯蓄増加→JA貯蓄増加という一連の「好循環」に目が眩んだとみられる。コメ消費者への配慮はゼロであった。コメ消費者は、全農の会員でないから当然かも知れない。

 

今回の米価急騰は、日本農政がこのまま続けば破綻するという悲痛な「シグナル」なのだ。全農が、これに敏感に反応しないで「旧套墨守」では、余りにも能がなさすぎる振舞である。(つづく)

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