日鉄のUSスチール合併問題は、大詰めを迎えている。土壇場で、両者の合併で米国政府が「金庫株」を持つとの構想が飛び出した。米国政府が、1%程度の株式を保有して、重大決定(企業縮小や解雇)で拒否権を持つとされている。ただ、米国では民間企業や外国からの投資に対して、伝統的に政府が関与を控えてきたため、極めて異例の措置とみられる。一説では、日鉄の提案ともされている。となれば、「実害」はないのだろう。
『ブルームバーグ』(5月30日付)は、「日本製鉄のUSスチール買収計画、『黄金株』構想浮上-QuickTake」と題する記事を掲載した。
米政府が日本製鉄によるUSスチール買収を承認する条件として、いわゆる「黄金株」、またはそれに類する権限を得る可能性がある。事情に詳しい関係者がブルームバーグ・ニュースに明らかにした。
(1)「この140億ドル(約2兆円)規模の買収計画を巡り、米政府が実質的にUSスチールの一部決定に対する拒否権を持ち得るという。詳細は今も調整中である。USスチールの本社があるペンシルベニア州選出のデービッド・マコーミック上院議員は、政府の関与を「黄金株」と表現している。ただし、政府が実際に株式を保有する形となるか、それともより弱い介入権限にとどまるかは現時点で不透明だ」
日鉄は140億ドルの買収のほかに、同額の設備投資を行い、新規製鉄所建設案を含めている。米鉄鋼業界にない破格の投資となる。トランプ政権が、これを高く評価するのは当然だ。米国が、この大規模投資をさせて、さらに「金庫株」要求するとは過剰である。日鉄が、ダメ押しで提案したのが真相であろう。
(2)「黄金株は、世界の一部地域では一般的だが、米国では民間企業や外国からの投資に対して伝統的に関与を控えてきたため、極めて異例だ。黄金株とは特殊な種類の株式で、通常は政府機関や少数株主に与えられ、企業の合併や大規模な資産売却、所有構造の変更などの重要事項において他の株主より強い議決権を持つ。政府が経営難の企業を救済する際に取得することもあれば、経済・公共政策・国家安全保障上の戦略的重要性を持つ企業に対して保有するケースもある」
米国で、金庫株が実施されている例は珍しい。米国側が提案したとは思えない理由だ。
(3)「国営企業が民営化された後も一定の監視権限を保持し、外資や敵対的買収から国家的な中核企業を守る手段とされる。米政府は日本製鉄と連携するUSスチールに対して、経営に関与する何らかの案を模索しているもようだが、伝統的な黄金株のような持ち株形式となるかは、両社からの確認が取れていない。マコーミック議員は、国家安全保障協定の一環として政府に黄金株が与えられる方向だと述べた」
米国政府は、国家安全保障協定を結ぶことが明らかだ。日鉄を規制するのはこれだけで十分なはずである。黄金株が未定であるのは、こういう事情であろう。
(4)「このような取り決めは通常、対米外国投資委員会(CFIUS)の勧告条件に対応するために定められるもので、「軽減合意」とも呼ばれる。今回、黄金株の権限がこうした取り決めに盛り込まれる可能性がある。CFIUSは外国企業による米企業買収案件を審査する。同議員はCNBCに対し、「米国のCEO(最高経営責任者)、米国人が過半数を占める取締役会、そして黄金株が導入されるだろう。これにより、米政府の承認を得なければ取締役の多くを任命できず、生産水準の引き下げなどもできないよう担保できる」と語った」
合併後のUSスチールは、経営陣も米国主導となる。この場合、日鉄はどういう形で自社の経営方針を反映させるのか。むしろ、日本側の経営支配権の「担保」が気になるほどだ。
(5)「米政府が上場企業の株式を保有することは極めてまれで、例外は、2008年の金融危機時に政府支援を受けたゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラー(現ステランティス・ノースアメリカ)だ。両社は支援と引き換えに政府に株式を提供し、政府はその株式を後に売却した。英国では政府が1980年代の民営化推進後、ロンドン証券取引所に上場する防衛企業BAEシステムズやロールス・ロイス・ホールディングスなど一部企業に対し黄金株を保有してきた経緯がある。保有比率は小さいが、当局が長期的に業界に影響力を持つ手段とされる。権限行使の具体的な方法は公表されていないが、データへのアクセスといった可能性が指摘されている」
米国政府が、上場企業への黄金株を保有するのは稀としている。英国では、防衛企業への例がある程度だ。
(6)「黄金株の活用には以前から批判もある。特定の主体に過度な権限を集中させることで、企業買収を阻害し、資本の自由な流れを妨げると論じる識者もいる。欧州連合(EU)はそうした観点から黄金株に否定的で、2000年代前半にはEU司法裁判所が黄金株を巡る幾つかの取り決めを違法と判断した」
EUは、黄金株を違法としている。


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