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日鉄が、USスチールの合併をほぼ確定させた。在米の日本人専門家は、おしなべて合併「悲観論」に傾いていた。政治情勢が、合併に壁になるであろうというものだった。だが、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)は、一貫して合併の経済的合理性と米国経済への貢献を強調した。結果は、WSJの見通し通りの結論に落着きそうだ。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月2日付)は、「米国の新たな『鉄鋼のカーテン』」と題する社説を掲載した。

 

トランプ米大統領が、日本製鉄によるUSスチール買収を認める方針を示したことについて、最も評価できる点は、クリーブランド・クリフスによるUSスチール買収という政治的な動きを阻止したことだ。最も良くない点は、この買収が外国製鉄鋼に対する関税の壁をさらに高くし、米国企業の競争力を低下させる新たな機会となったことだ。

 

(1)「トランプ大統領は、ピッツバーグのモンバレー工場への22億ドル(約3160億円)を含め、日鉄がUSスチールに計140億ドルの投資を約束していると誇らしげに語った。しかし、日鉄による投資の約束の大半は、買収の承認をバイデン前米政権に求めていた段階で既に固まっていた。それでもジョー・バイデン前大統領は、マッコール氏とクリーブランド・クリフスのローレンソ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)への配慮から、この取引を阻止した」。

 

バイデン前大統領は、労組(USW)と国内鉄鋼企業クリーブランド・クリフスの肩を持って、合併阻止に動いた。それぞれの利益を代弁したものだ。

 

(2)「マッコール氏(USW会長)とゴンカルベス氏(クリフスCEO)は、価格引き上げにより有利になる鉄鋼カルテルの形成を望んでいる。日鉄は2023年、クリーブランド・クリフスとの買収合戦に競り勝った。USスチールを取得すれば、クリーブランド・クリフスは米国内で、高炉による製鉄、鉄鉱石埋蔵量、電磁鋼生産の100%、自動車に使用される鋼材の3分の2を支配することになっていた」

 

マッコール氏(USW会長)とゴンカルベス氏(クリフスCEO)は、鉄鋼カルテルの形成を望んでいる「仲間内」である。労組が企業と手を結んでいる悪例だ。

 

(3)「共和党は、一般労働者に支持されていた日鉄による買収案を承認するようトランプ氏を説得した。クリーブランド・クリフスは先月、赤字圧縮と債務返済のために、従業員1000人のレイオフとペンシルベニア州およびイリノイ州の工場の操業休止、ウェストバージニア州での新工場建設計画の中止を発表した。そこで出てきたのが、通商拡大法232条に基づく鉄鋼関税を現行の2倍の50%にするというトランプ氏の新たな救済策だ。関税の引き上げは、クリーブランド・クリフスの赤字を食い止める助けにはなるかもしれないが、雇用の確保や創出にはつながりそうにない。自動車メーカーや機械メーカーなどの鉄鋼消費者のコストを増大させ、それがクリーブランド・クリフスに跳ね返ってくる可能性がある」

 

共和党は、日鉄による買収案を承認するようトランプ氏を説得した。トランプ1期の元商務長官は、早くから「合併OK」説であった。ゴンカルベス氏(クリフスCEO)は、日鉄を悪口雑言で非難したが、今や「青菜に塩」の立場に陥っている。50%の関税引上げが、クリフスのユーザーのコストを増大させて需要減を招き、クリフスに跳ね返ってくる可能性があるからだ。

 

(4)「トランプ氏が1期目に課した鉄鋼・アルミニウム関税は一時的な価格上昇につながったものの、値上がりが顧客に打撃を与え、需要を減退させた。米連邦準備制度理事会(FRB)の調査によると、この関税によって米製造業で7万5000人の職が失われたと推定されている。金属製品製造業における雇用は、その関税の発効時よりまだ約3万3000人少ない」

 

トランプ1期の鉄鋼・アルミニウム関税は、値上がりが顧客に打撃を与え、需要を減退させた。この関税によって米製造業で7万5000人の職が失われた。今回の50%関税は、さらに被害を大きくする。USスチールは、日鉄の合理化投資でコストを引下げるので、逆に利益が急増する恵まれる立場だ。米鉄鋼市場で、一段と優位な立場になる。荒野を疾走するに等しい話だ。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(6月1日付)は、「USスチール従業員、日本製鉄に期待する雇用の安定」と題する記事を掲載した。

 

5月30日午後、強風が吹きすさぶ中で米東部ペンシルベニア州ウエストミフリンにある米鉄鋼大手USスチールのモンバレー製鉄所アービン工場での集会は、2023年末に日本製鉄が創業124年のUSスチールを買収すると発表して以降、たどった長い道のりのクライマックスとなった。USスチールの従業員集会の参加者にとっては、「雇用」と「投資」が最優先事項であるからだ。

 

(5)「集会でトランプ大統領は、会場を埋めたオレンジ色の作業着を着た従業員とその家族に「あなた方のところにたくさんのカネが入ってくる」と話した。参加者の多くが、同氏の方針転換に不安を抱いていたとしても、日鉄による投資計画への期待がその不安を打ち消した。トランプ支持者でモンバレー製鉄所内の別の工場に23年間勤務する修理工のジョンさんは、トランプ氏が「買収計画の詳細を知った」ので方針を変えたと考えている」

 

合併反対論であったトランプ氏が、方針転換したことに不安もあるが、日鉄が2兆円投資によって新製鉄所計画を明らかにしている。これは、従業員にとって最大の贈物である。雇用の確保になるからだ。