ダイモン氏の重大警告
英誌も金融危機を予告
止め役はベッセント氏
日本の果すべき役割は
米中の財政赤字は、膨脹の一途を辿っている。米国は、公的債務残高の対GDP比が24年に120%を超えた。中国は、26年に102%へ達する。期せずして、両国の財政状況が悪化し続けている点に注目しなければならない。
米国はとりわけ、財政赤字が金融市場へ敏感に反映される金融環境だ。「荒ぶる」トランプ大統領といえども、市場の発する危険信号へ即刻、対応せざるを得ない弱い立場にある。トランプ政策は、「市場に監視」されているようなものである。トランプ政策の朝令暮改は、市場変化に即刻対応するという意味で、「TACO」(Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビって退く)」なる造語まで生んでいる。トランプ氏にも弱点があるのだ。
その好例は、4月11日の対中関税145%を発表した途端に、米国債相場が急落(利回りは急騰)したことに現れている。これは、高関税が米国経済を狂わせると市場が受け取った結果である。いわゆる、「債券自警団」が市場へ登場して、危険シグナルを送ったものである。
なぜ、国債流通利回りが上がると不都合なのか。それは、企業への貸出金利や住宅ローン金利がスライドして引上げられるので、経済活動が自動的に抑制される、つまり景気ダウンを招くからである。こういう背景もあって、国債金利は比較的安定している特性がある。それがいま突然、不安定化し始めたのだ。
実は、こういう事態は、今後も引き続き起こりうる土壌が残っている点が、米国経済にとって極めて厄介なことになってきた。それは、米国の金融構造がここ10年以上の間にすっかり変わってしまった結果だ。この問題は、日本にとっても「対岸の火事」で見過ごすわけにいかない重大変化である。米国債利回り急騰が、日本経済にも大きな影響を与える事態が予見されるからだ。
米国経済の混乱は、日本へは円相場急騰という「津波」をもたらす。円高は、交易条件の改善というプラス効果をもたらすので歓迎だが、それにはおのずと限度がある。日本は不思議に「円高不況論」に取り憑かれる習性がある。株式市場が、その最適例である。円高による輸出不振が日本経済へ打撃を与えるという論法が主流を占めるのだ。
実態は、円高で輸入物価が下落して中小企業・零細企業、それに家計が潤うのだ。こういう面は一切、捨象されてしまい、円高不況論が支配的になり、大企業がうろたえるのである。この状況が再び、日本で起りかねない点に、今から腹を括っておくべきであろう。
ダイモン氏の重大警告
米国債は、25年5月の月間ベースの相場が今年初のマイナスとなった。関税を巡る不確実性の再燃や、米国政府による債務拡大への懸念が背景だ。こうした状況を受けて、JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)は、米債券市場の混乱(利回り急騰)が「いずれ起こる」と警告した。不気味な予告である。この事態が起れば、短期間での終息は困難になろう。『ブルームバーグ』(5月30日付)が報じた。
ダイモン氏は、米国金融界を代表する論客だ。米国の放漫財政が、市場の反逆(債券自警団)によって国債相場の急落をもたらすだろうという予告である。米国は、市場機能が発達しているので、米国の財政赤字へ「掣肘」を加えて、赤字削減へ向かわせるであろう、と警告している。
こうした事態が起る場合、米金融界には猛烈な衝撃波が襲う。保有債券価格の急落が、金融界の経営安全性へ重大な影響を与えるからだ。2008年のリーマンショック並みの事態発生が、いまから十分に予想できるのである。
ダイモン氏は、財務の補完的レバレッジ比率(SLR)などに「深刻な欠陥」があるとしている。SLRとは何か。銀行の安定性を測るための規制基準の一つだ。銀行が持つ総資産(融資や投資など)に対して、どれだけの自己資本を保有しているかを示す尺度である。この比率は、銀行のリスクを正確に評価するため、より広い範囲の資産を考慮に入れるよう設計されている。
銀行のリスクを正確に評価するには、リスクの低い資産だけでなく、(貸借対照表には計上されない)オフバランスシート取引も含まれる。具体的には、スワップ、オプション、金融先物、先物外国為替などが含まれるのだ。要するに、あらゆる金融資産を対象として暴落に供えて手厚い内部留保が問われる。ダイモン氏は、JPモルガン・チェースに関して大丈夫だが、他の金融分野では心許ないと懸念している。「混乱は起こるだろう。そしてパニックになるだろう」と強い警告を発している。
不気味なのは、ダイモン氏一人だけの警告でなく、世界最古の経済誌である英国『エコノミスト』(5月31日号)が、「姿変えた米金融に迫る危機」と題しさらに具体的な警告をしている。「次の金融危機は必ず起きる。それが歴史の教訓だ。いつ大惨事に見舞われるかは誰にもわからない。しかし、その時が来れば投資家は突如として、自分たちが実態のよく分からない金融業界に依存していた事実を思い知らされることになるだろう」と鋭く指摘するのだ。(つづく)
https://www.mag2.com/m/0001684526
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