トランプ米国大統領の「不規則発言」が、跡を絶たない状態だ。今度は、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の任期が2026年5月まであるにもかかわらず、次期議長候補を近く発表すると発言した。この異例の早期指名が実現すれば、金融政策の混乱は必至である。「債券自警団」によって、再び国債価格急落(利回り上昇)という事態に見舞われ兼ねないリスクを抱えている。
こうした不規則発言をする裏には、トランプ氏がFRBへ再び1%ポイントもの大幅利下げを要求していることと無縁でない(『ブルームバーグ』6月7日付)。パウエル議長へ利下げさせるために「脅し」として、次期FRB議長候補の早期発表によって圧力をかけようという狙いだ。トランプ流のディールである。
『日本経済新聞 電子版』(6月7日付)は、「トランプ氏、次期FRB議長『すぐ明らかに』 異例の早期指名示唆」と題する記事を掲載した。
トランプ米大統領は6日、米連邦準備理事会(FRB)の次期議長について「すぐに明らかになる」と述べた。パウエル議長の任期は2026年5月まであり、異例の早期指名になる可能性もある。実現すれば金融政策の混乱は必至だ。
(1)「大統領専用機内で記者団の質問に答えた。「とても良いアイデアがある」と、特定の候補を考えているような発言をした。記者が元FRB理事のケビン・ウォーシュ氏の名前を挙げると「彼は非常に高く評価されている」と答えた。パウエル氏を議長に選んだ第1次トランプ政権の指名は17年11月。バイデン前大統領が議長の続投を決めた際の指名は21年11月だ。それぞれ翌年2月に任期切れが迫っていた。過去2回と同じタイミングなら26年に入ってからの指名でも不自然ではない。ベッセント米財務長官は4月のインタビューでFRB議長の選定は今年秋ごろから始まると発言していた。前倒しになれば極めて異例だ」
次期FRB議長は、今年11月ころの指名で十分、スケジュール的に間に合う話である。それを半年も繰上げようというのは「悪巧み」と受け取られよう。それは、市場の混乱を招くだけだ。国債相場の急落(利回り急騰)というしっぺ返しを受けるリスクが高い。
(2)「早期指名は「影の議長」を生む可能性がある劇薬だ。ベッセント氏はそのアイデアを24年10月に米雑誌で披露した。批判され、後に否定した。当時の案は任期切れの1年ほど前に次の議長を指名し、議会に承認を求めるというものだ。ベッセント氏は、「(大統領が議長を解任できなくても)影の議長を作ることができる。パウエル氏が何を言おうが、もう誰も気にしないだろう」と主張した。市場は金融政策の先行きを読んで動く。FRBが実際に利下げをしなくても、将来利下げをする可能性が高くなれば市場の取引で金利は低下し、景気を刺激する効果が生まれる。「影の議長」案はこうした原理を利用する考えだ」
今は、利下げでなく利上げが話題になり始めている。トランプ関税による物価上昇懸念である。
(3)「トランプ氏が早期指名を示唆した背景には、パウエル氏へのいらだちがある。トランプ氏はFRBに早期利下げを求め、様子見を続けるパウエル氏を「遅すぎる男」「愚か者」と批判している。4月には議長の解任を示唆する発言をした。市場混乱を招いたため今は任期満了まで待つ考えを表明して修正したが、不満はむしろ強まっている。仮にトランプ氏が早期指名をしても、思惑通り金融政策に影響力を発揮できるかはわからない。議長人事を承認する上院には、中央銀行の独立性を重視する議員が多い。過去にはトランプ氏の指名した理事を拒否した例もある」
トランプ氏のFRB議長をないがしろにする発言は、「天に唾する」に等しい行為である。中央銀行の独立性を冒す危険行為である。
(4)「米連邦公開市場委員会(FOMC)は7人の理事と12地区連銀の総裁らが投票権の有無に関係なく全員で金融政策を議論している。参加者はそれぞれの考えを講演やイベントで明らかにしており、議論は透明性が高いためブレにくい。次期議長の最有力となるウォーシュ氏は、FRB理事時代にバーナンキ議長に信頼された穏健派として知られる。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)は4月、トランプ氏がパウエル氏を解任してウォーシュ氏を後任にする構想を練ったが、ウォーシュ氏自身が解任に反対したと報じた」
FRB内部は、対トランプ氏で結束している。中央銀行の独立性を守るという崇高な任務に燃えているからだ。FRB議長の後任候補の早期決定は、トランプ氏と「結託している」と受け取られやすく、負の印象だけを高めるに違いない。そういう「火中の栗を拾う」候補者が出るだろうか。
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