中国は、補助金政策の弊害によって過剰設備を生んでいる。これによる値引き競争が、際限なくつづくドロ沼状態に陥ってきた。こうした中で、中国の新車市場で過度な価格競争を見直す動きが出ている。大手の比亜迪(BYD)が、5月下旬に始めた値引きに対し、政府や業界団体が批判を強めているためだ。自動車製造業の収益が悪化するなか、過当競争を避ける思惑も秘められている。「共倒れ防止」というギリギリの限界にきている。
『日本経済新聞 電子版』(6月9日付)は、「中国・吉利、『車工場新設せず』 生産能力余剰の他社と協業拡大へ」と題する記事を掲載した。
中国民営自動車大手、浙江吉利控股集団の李書福董事長は7日、重慶市で開かれた自動車の国際会議で「新たな自動車工場を建設しない」と述べた。世界的に余剰となっている生産能力を活用するなどして他の完成車メーカーとの協業に前向きな姿勢を示した。
(1)「李氏は、動画でのスピーチの中で「現在の世界の自動車産業は深刻な過剰生産能力問題に直面している」と指摘した。2月には仏ルノーのブラジル工場で吉利の車両をつくることで合意したと発表した。「自動車産業は終わりなきマラソンのようなもので、短距離走とは本質的に異なる」とも述べ、専門人材の育成に力を入れるなど持久力を高める努力をしていると強調した。吉利は2027年までにグループ販売台数を24年実績比5割増の500万台に増やす目標を掲げている。米コンサルティング会社のアリックス・パートナーズによると、中国では24年時点で146の自動車ブランドがひしめく。過当競争による価格競争が激しさを増しているほか、生産能力の過剰問題も指摘されている」
これまで2027年までにグループ販売台数を24年実績比5割増の500万台に増やす目標を掲げてきた。だが、業界は深刻な過剰生産問題に直面している。吉利は、こうした事情によって「新たな自動車工場を建設しない」と発言せざるを得ない状況になった。
『日本経済新聞 電子版』(6月9日付)は、「中国車市場、値引き競争に官が『待った』 けん引役のBYDに反発」と題する記事を掲載した。
中国の新車市場で過度な価格競争を見直す動きが出てきた。大手の比亜迪(BYD)が5月下旬に始めた値引きに対し、政府機関や業界団体が批判を強めているためだ。自動車製造業の収益が悪化するなか、過当競争を避ける思惑がある。ただ採算が向上するメドはたたず、厳しい経営環境が続く。
(2)「中国内陸部の重慶市で開かれた自動車の国際会議。政府系経済団体、中国国際貿易促進委員会で自動車分野トップを務める王俠会長は6日、「際限のない価格競争などは企業の合理的な利潤を圧迫し、製品やサービスの質に悪影響を与え、長期的には企業と消費者に不利益をもたらす」と強調した。自動車メーカーからも価格競争に反対する声が相次いだ。国有大手、重慶長安汽車の朱華栄董事長は、「際限なく、道徳もない、法律も守らない悪性の競争に反対する」と表明。中堅の賽力斯集団(セレス・グループ)の張興海董事長も「サプライチェーン(供給網)の協力に悪影響を与え、産業の強靱(きょうじん)性を弱める」と述べた」
自動車業界全体が、過剰生産と値引き競争で疲弊しきっている。背景には、政府補助金がドロ沼競争を強いてきたのだ。地方政府の支援がなければ、無駄な競争がここまで続かなかったであろう。計画経済の無駄が現れている。
(3)「各社が念頭に置くのは、BYDが先導する形で始まった価格競争だ。同社は「夏だけの一律価格」と打ち出し、5月23日から期間限定の値引きを始めた。主力ブランド「海洋」「王朝」で計22モデルを対象とする。海洋の小型EV(電気自動車)「海鷗」は最安モデルの価格を5万5800元(約110万円)と従来より2割引き下げた。競合も反応し、浙江吉利控股集団傘下でEVなど新エネルギー車のブランド「吉利銀河(ギャラクシー)」や新興EVの浙江零跑科技(リープモーター・テクノロジー)、国有大手の上海汽車集団の高級EVブランド「智己汽車」などが値引きに踏み切った」
BYDが、徹底的な価格競争を巻き起こした。経営に余裕をもった競争でなく、ライバルを追い落とす狙いだ。BYDも、手厚い政府補助金が支給されている。純粋な競争ではなかった。
(4)「BYDは24年2月にもモデル刷新に伴う形で複数車種を値下げし、中国各社や米テスラが追随した経緯がある。新興勢の参入が多く競争が激しい中国の車市場で、シェアを奪うため値下げに乗り出すことは珍しくなかった。ただ、今回の値下げに対する反発は大きい。業界団体の中国汽車工業協会は5月30日付けで発表した声明で、「5月23日以来、ある企業が率先して価格を下げ、多くの企業も追随したことでパニックを引き起こした」と言及した。実質的にBYDを名指しで批判した形で、企業名を示唆するのは異例だ」
企業は、補助金を支給されていなければ、ここまでドロ沼競争にならず、途中で撤退したであろう。補助金漬けが、無益な競争を行わせた。中国経済の無駄が、ここに現れている。
(5)「背景には、内向きな過当競争で消耗戦を強いられている状態を示す「内巻」への警戒がある。中国の乗用車業界団体幹部の崔東樹氏によると、中国のEVの平均価格は25年1〜4月に23年から15%下がり14万3000元となった。ガソリン車を含む新車全体でも7%下がった。価格下落は販売台数の拡大につながる一方で採算悪化をまねく。
中国の自動車製造業全体の純利益額の合計は24年に23年比8%減の4622億元だった。25年1〜4月も前年同期比5.1%減で、製造業全体が1.4%増であるのに比べ厳しい状況だ」
価格下落は、販売台数の拡大につながる一方で、企業の採算悪化をまねいてきた。こうした事態は自動車だけでなく、他産業でも起こっている。矛盾の連鎖だ。
コメント
コメントする