日本の国策半導体企業ラピダスは、7月に最先端「2ナノ」半導体試作品を発表する。その直前の時期に、ホンダがラピダスへ出資を決めたことは極めて示唆に富むニュースだ。ラピダスは、技術情報開示について厳しく管理している。ホンダは、そういう中で開発実態を確認して出資を決めたのであろう。
昨秋、ラピダス出資企業の一つであるソフトバンク宮川社長は、ラピダスへ極めて「投げやり的発言」をしていた。それが、今年に入ってがらりと「前向き評価」へ変わった。ラピダスから開発実態を知らされたからであろう。外部でも、断片的な情報を丹念に積み上げれば、ラピダスが確実に開発精度を挙げていることは分るものだ。要は、情報への「詮索力」の強弱でラピダスへの認識で差がつくのであろう。
『日本経済新聞 電子版』(6月10日付)は、「ホンダ、ラピダスに出資へ トヨタに続き国策半導体を支援」と題する記事を掲載した。
ホンダは、最先端半導体の国産化を目指すラピダスに出資する。自動運転車など、次世代車の頭脳となる半導体の調達を検討する。トヨタ自動車もラピダスに出資しており、二大自動車メーカーが国産半導体の確保に道筋をつける。ラピダスの最先端半導体の量産や顧客開拓に弾みがつく。
(1)「ホンダは、2025年度後半の出資を想定している。詳細は今後詰めるが、出資額は数十億円規模になるとみられる。ホンダは半導体を次世代車技術の中核に位置付けており、ラピダスへの出資で製品の安定調達につなげる。ホンダは23年に世界最大の受託生産会社、台湾積体電路製造(TSMC)と車載半導体の調達で協業した。TSMCは最先端の2ナノ(ナノは10億分の1)メートル半導体を25年後半から量産する。ホンダはTSMCとの協業に加えてラピダスに出資することで、中国と台湾の関係緊張などの地政学リスクにも備える」
ホンダは、ラピダスがTSMCと変わらない開発力を積んでいることを確認したのであろう。仮に、ラピダスがTSMCと比べて相当な差があれば、あえてラピダスへ出資するはずもない。ラピダスが、TSMCの地政学的リスクを完全にカバーできると踏んだのであろう。
(2)「ラピダスは、資本増強に向けてトヨタなどの既存株主や銀行団に出資を求めている。ホンダは新たに株主に加わり、国策半導体の生産計画を支援することになる。ラピダスは22年8月に設立され、トヨタのほかNTTやソフトバンク、ソニーグループ、デンソー、NEC、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が計73億円を出資している。8社はラピダスへ追加出資することも決めている」
これまでのメディア情報では、ラピダスの新規株主になり手がいないとニュアンスで報じてきた。そういう中で、政府系金融機関の日本政策投資銀行が株主として名乗り出た。これは、管轄の財務省がラピダスへ首を縦に振ったという意味だ。財務省はそれまで、ラピダス消極論の立場であった。それを、一掃する狙いがあったのであろう。
(3)「加えて、富士通と北洋銀行のほか、三井住友銀行、みずほ銀行、日本政策投資銀行も出資の意向を示している。ラピダスは各社と協議して計1000億円の調達を目指している。1社当たりの出資額は数十億〜200億円前後になる見通しだ。ラピダスは、27年の量産開始までに5兆円の資金が必要と試算している。経済産業省が約1兆7200億円を支援するが、なお3兆円超の資金が必要だ。政府の支援頼みという批判もあるなか、ラピダスは民間資金の調達にめどをつけることで政府から長期的な支援を受けやすくする狙いもある」
北海道の北洋銀行までが、出資することになった。北洋の前身は昔の相互銀行である。倒産した拓銀(北海道拓殖銀行)を引き受けただけに、地元経済振興への強い責任感に基づいて出資したのであろう。
(4)「もっともラピダスは、技術的な課題や顧客開拓の不安を解消し切れておらず、出資にはリスクも伴う。ラピダスはこのほど複数の大手商社にも出資を依頼したが、商社側は出資に慎重な姿勢を示したもようだ。ラピダスは4月から北海道で2ナノ半導体の試作を開始し、順調にいけば7月にも試作品ができるとしている。
メディアは、必ず「技術的な課題や顧客開拓の不安を解消し切れておらず」という常套句を使って、「ラピダス不安」を煽っている。「2ナノ」という最先端部門だけに、いろいろと不安要素はあるが、客観的なこれまでの開発推移とIBMや日本政府という強力なバックがついている意味を理解していないようだ。それほど、ラピダスの先行きに不安を持つのならば、さらに深い取材によって疑問点を究明すべきだ。さらなる取材努力をしないで、ただ不安を煽るのは正しい報道と言えないだろう。一種の責任回避である。


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