トランプ米大統領は、2期目の最初の外遊で中東を訪れ、人工知能(AI)を中心とした何兆ドルもの新規投資を呼び起こした。トランプ氏は、日本を相手にすれば、もっと大きな成功を収めるチャンスを得られる。こういう主張が、米国に現れた。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月13日付)は、「日本にあるトランプ氏の大チャンス」と題する寄稿を掲載した。筆者のマイク・ギャラガー氏は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)の寄稿者で、ハドソン研究所の特別研究員である。
日本は、太平洋地域において米国の支配力を支えている。世界有数の経済大国であり、年間生産は約4兆ドル(約580兆円)で、そのうち約27%が製造業によるものだ。日本企業は、ロボット工学から材料科学、半導体製造装置に至る重要産業で世界をリードしている。また日本は、米国の軍人を他のどの国よりも多く受け入れている。
(1)「トランプ氏の大統領就任から100日間で、トランプ政権は在日米軍の地位を高め、日本の極超音速ミサイルプログラム向けの装備品売却を承認し、軍民両用船の共同建造について検討した。また、トランプ氏はミサイル防衛システム「ゴールデンドーム」に関する協力を示唆した。だが、貿易と投資はあつれきの目立つ分野となっている。筆者が先月東京を訪れた際、日本の政策面やビジネス分野のリーダーから、米政府の動向に関する困惑と動揺の声を聞いた」
トランプ氏が、日本の産業技術力の実相を十分に認識していないから、相互関税という不条理なものを押しつけているのであろう。
(2)「日本と米国にはもっと野心的な経済アジェンダが必要だ。今こそ、セクターごとの貿易赤字という狭い範囲のこだわりから脱却するときだ。米国は、中国共産党の経済的侵略から日米両国を守るための新たな制度を構築する必要がある。日米同盟が、既に中国の軍事的侵略から両国を守っているのと同じように」
日米同盟が、「中国の軍事的侵略から両国を守っている」という指摘は正しい。
(3)「経済侵略は、中国に何兆ドルもの貿易黒字をもたらした。しかも、それは増加している。これは抑制された内需、戦略的産業への補助金や驚くべき規模の知的財産の窃取に下支えされたものだ。日本と協力してこの侵略に立ち向かえば、貿易交渉の焦点は鉄鋼、大豆やスバルなどの自動車を巡る言い争いから、造船、半導体やソフトウエアの市場支配をどう奪回、ないし維持するかという、もっと生産性のある課題へと移るだろう。トランプ氏がこの道を選べば、日本政府内で意欲的なパートナーを見つけられるだろう。日本のリーダーたちは、少なくとも2019年以降、明日の産業に関して協力を推進してきた」
日米が協力すれば、造船、半導体やソフトウエアなどの分野で大きな成果を上げられる。
(4)「中国共産党に関する下院特別委員会での超党派による推薦を通じ、日本を投資規制「適用除外国」のホワイトリストに載せることから始めるべきだ。その後、ジョン・フェラン米海軍長官が描く造船分野での協力のビジョンに向けて行動を起こすべきだ。同長官が初の外国訪問先に日本を選んだのは、これが理由だった。このビジョンの実現のため、2024年に結んだ合意を延長すべきだ。米国と日本は、日本の造船所で米国の船舶を修理することと、合弁事業や供給契約を通じ、無人艇製造に関する防衛産業基盤を融合させることで合意していた」
日本は、米国の投資規制「適用除外国」のホワイトリストに載せるべきとしている。つまり、日本の投資が米国の利益という認識で、投資規制から外すべきだ。そうなれば、日鉄・USスチール合併はスムースに行く。
(5)「日米両国政府はそこから、経済連携に突き進むべきだ。こうした連携には関税に関する合意も含まれるが、それだけにとどまらない。このパートナーシップは、重要技術に関する関税面の連携や輸出管理、さらには、前駐日大使のラーム・エマニュエル氏が提案したような貿易版の集団防衛の枠組みを含むものになる可能性がある。この枠組みは、中国のレアアース輸出規制のような経済的圧力に対抗するためのものだ。日米の経済連携には、サプライチェーン(供給網)のデジタル認証基準を組み込む必要がある。これは、中国が自国への関税を回避したり、日米の重要インフラに脆弱な部分を設けたりするのを防ぐためのものだ」
米国のサプライチェーンデジタル認証基準とは、供給網の安全性を確保するために、主に情報通信技術や製造業を対象にした基準やルールを設定するもの。日本もこれに組み込めば、同じ基準でスムースに運ぶという意味だ。まさに、日米経済の一体化である。
(6)「さらに進んで日米の経済連携では、デジタル分野の支配的地位の基盤を確固たるものにするため、両国の補完的役割の強みを生かすべきだ。まずエネルギー分野で、米国の液化天然ガス(LNG)の対日輸出契約をまとめる必要がある。電池の輸入・生産、次世代の原子力技術に関する協力や、レアアースの代替サプライチェーンを構築するための共同作業も必要だ」
米国は、日本に対して壁を取り払い、電池の輸入・生産、次世代の原子力技術に関する協力や、レアアースの代替サプライチェーンなど、幅広い協力体制を組むべきと提言している。
(7)「(米国が)貿易と技術分野で、日本との協力に大きく踏み出すことは、自国の防衛に積極的に投資しているこの同盟国に恩恵をもたらす。そして日本は、(恐らく例外的存在として)米国から受け取るのと同等のものを米国に提供できる。日本との連携はまた、米国と他の諸国との貿易ディールの重要な基準になる。トランプ政権はそれを利用して、同盟諸国との関税面の戦術的対立を、中国が仕掛ける経済戦争に対抗するための戦略的協力関係に変えていくことができる。中国政府はそれに羨望のまなざしを向けるだろう」
米国は、日米が技術的に対等であるとの前提で同盟関係強化が不可欠である。中国が、仕掛ける経済戦争に対抗するには、日米の共同サプライチェーン形成が必要である。
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