トランプ米大統領は、ロンドンで実施された米中貿易協議の成果を声高に主張している。これに対し、中国の習近平国家主席は目立たないながらも戦略的な成果を上げた。中国が時間的な猶予を得るべく、レアアースの輸出解禁期間を小出しにして、米国からの打撃の大きい関税措置や技術規制の脅威を回避しようとする狙いであるからだ。メディアは、中国が切り札でレアアースを使っているとみている。現実は、中国の対抗策がレアアースしかないことを浮き彫りにしているのだ。「孤塁」を守っている感じである。実態を見誤ってはならないであろう。
『ブルームバーグ』(6月13日付)は、「習国家主席が米中貿易協議で描く長期戦略-トランプ氏の重点と対照的」と題する記事を掲載した。
トランプ米大統領がロンドンで実施された米中貿易協議の成果を主張したのに対し、中国の習近平国家主席は、打撃の大きい関税措置や技術規制の脅威を回避する交渉プロセスに固執した。
(1)「協議終了後の11日、トランプ氏はソーシャルメディアへの投稿で中国からの重要な磁石の供給回復について合意が「成立した」と表明し、中国人留学生ビザの制限解除を約束した。ラトニック米商務長官はその数時間前、米国の自動車や防衛産業に不可欠な金属が十分迅速に供給されるようになれば、最近導入した対中技術規制を解除すると表明した」
米国は、レアアースの合意が成立したと意気揚々と発表した。だが、『ウォール・ストリート。ジャーナル』によれば、6ヶ月の期間限定としている。米国が、新たな輸出規制を持ち出せば、6ヶ月後にレアアース輸出を止めるという意図が隠されている。中国は、サバイバルを掛けた必死の戦いである。レアアースという切り札がなかったならば、中国はいまごろ「落城」していたであろう。
(2)「中国の重点は、全く違うところにあった。共産党機関紙『人民日報』の12日付け論説には、今回の協議を巡る中国側の最も具体的な見解が示されたものの、輸出管理については一切言及がなかった。その代わり、「協議メカニズム」を通じて両国の相違を埋める「制度的保障」を同紙は強調している。ロンドンでの協議に先立ち行われた米中首脳電話会談でも、習氏はトランプ氏にこの経路を用いた意思疎通の重要性を説いたと論じている」
『人民日報』は、次のように主張している。
(3)「中米経済貿易協議メカニズムの設立は、ジュネーブ経済貿易協議の重要な成果であり、双方が相違点を埋め、協力を深めるための制度的保証を提供する。
数日前の電話会談で、中国と米国は、双方のチームがジュネーブ・コンセンサスを引き続き実施し、できるだけ早く新たな協議を行うことで合意した。 電話会談で習近平国家主席は、双方が確立された経済貿易協議メカニズムを有効に活用すべきであると強調した」
中国は、米中貿易協議について双方が相違点を埋め、協力を深めるための制度的保証と主張している。中国共産党は、米中間に何らの紛争も起っていないと「平静さ」を装っているのだ。これは、国内の動揺を抑えようという狙いである。
(4)「この会議は、両国の国家元首の戦略的コンセンサスの指導の下での重要な協議です。 両国と国際社会のあらゆる階層の人々がこの会議に細心の注意を払っており、一般的に、世界の二大経済大国である中国と米国は、対立よりも摩擦や対立をめぐる対話よりも協力の方が優れていると考えており、双方が対等な立場での対話と協議を通じて相違点を解決し、世界経済により多くの安定性と確実性を注入することを望んでいます」
中国と米国は、「対立よりも摩擦や対立をめぐる対話よりも協力の方が優れていると考えており、双方が対等な立場での対話と協議を行っている」と平静さを強調している。これをみても、米中対立で中国経済が低迷していることを窺わせている。何事もなかったと、カムフラージュしているのだ。
(5)「中米関係の歴史を振り返ると、制度的な取り決めを通じてコミュニケーションと対話を強化することが、双方の違いを適切に処理し、協力を強化する上で重要な役割を果たすという教訓が明らかになる。
今回の会談では、双方が率直かつ綿密なコミュニケーションを行い、互いの経済・貿易上の懸念を解決するために新たな進展を遂げました。その役割を果たすのが協議メカニズムです」
中国外交部は、これまで米国へ「徹底的に最後まで戦う」と宣言していた。あの激烈な主張が嘘のような落ち着いたトーンである。国民に向けて、「何事もないのだよ」と言い聞かせていることが、むしろ不自然さを感じさせるのだ。
コメント
今回は中国が、短期的なレアアース輸出と引き換えに、アメリカ技術の流出に繋がる中国人のアメリカ留学を勝ち取った訳で、幾らトランプが見栄を張っても、周の勝ちですね。
今後の安全保障にはレアアースに限らず資源確保先の分散が必須で、これこそG7の大きなテーマの一つだと思います。
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