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中国は、EV(電気自動車)の波に乗って、ついに「空飛ぶクルマ」へ進出するまでになっている。いくら、「新しもの好き」な中国でも、空飛ぶクルマとなると二の足を踏むようだ。主要顧客は地方政府傘下の国有企業だが、不動産バブル崩壊後遺症で、肝心の土地売却益が大きく落込んでいる。まだ「不要不急」の空飛ぶクルマを購入する雰囲気ではなさそうだ。

 

『東洋経済オンライン』(6月13日付)は、「中国『空飛ぶクルマ』開発企業の急成長にブレーキ」と題する記事を掲載した。この記事は、中国『財新』の転載である。

 

「空飛ぶクルマ」の開発を手がける中国の億航智能(イーハン)の業績が、約1年間の急成長を経て失速の兆しを見せている。

 

(1)「同社が5月に発表した2025年1~3月期決算では、売上高が前年同期比約58%減の2610万元(約5億1790万円)に縮小。純損益は7840万元(約15億5580万円)の赤字で、損失額が前年同期比約24%増加した。eVTOL(電動垂直離着陸機)とも呼ばれる空飛ぶクルマは、電動モーターでプロペラを駆動し、人を乗せて垂直離着陸が可能な飛行機械を指す。イーハンが開発したeVTOL「EH216-S」は13月期の販売機数が11機にとどまり、前年同期の26機の半分未満に落ち込んだ」

 

イーハンの1~3月期業績は、大幅な減収で赤字となった。販売機数は、11機で前年同月の26機の4割へ落込んだ。

 

(2)「イーハンの四半期業績は、2024年1~3月期から同年10~12月期まで4四半期連続で顕著な成長を記録した。通期ベースで見ると、2024年の年間売上高は4億5600万元(約90億4900万円)と前年の3.9倍に拡大。純損益は2億3000万元(約45億6420万円)の赤字だったものの、損失額は前年比24%縮小していた。にもかかわらず、2025年1~3月期の業績はなぜ急に悪化したのか」

 

2024年1~3月期から同年10~12月期まで、4四半期連続で顕著な成長を記録した。それが、今年1~3月期に失速したのは、早くも需要一巡であろう。米中対立の真っ只中で、必需品でない空飛ぶクルマに需要があるとは思えない。「ご祝儀」であったのだ。

 

(3)「イーハンの説明によれば、背景には主要顧客である地方政府傘下の国有企業の意思決定プロセスがある。「国有企業の調達は政府予算の制約を受ける。新年度予算の策定には一定の時間がかかるうえ、国有企業は社内手続きに要する時間も(民営企業に比べて)長い」。イーハンの王釗COO(最高執行責任者)は決算説明会でそう述べ、1~3月期の業績落ち込みは年度初めの一時的なものという見解を示した」

 

主要購買層が、今は地方政府である。民間企業が購入に向けて動き出さなければ、本格的な需要増にはつながらないであろう。

 

(4)「イーハンは、空飛ぶクルマの商用運航実現を目指し、航空安全当局の規制のハードルを着実にクリアしてきた。2025年3月下旬には、中国の民間航空行政を所管する中国民用航空局(民航局)が「億航通用航空」と「合翼航空」の2社に対して、(パイロットが搭乗しない)無人操縦のeVTOLによる商業目的の航空運送事業認可(AOC)を初めて交付した。億航通用航空はイーハンの100%子会社、合翼航空は億航通用航空と安徽省合肥市の政府系投資会社の合弁会社であり、いずれもEH216-Sを使った商用運航サービスを計画している」

 

空飛ぶクルマの商用運航は、2社のみに与えられている。その運航条件も、次のパラグラフで指摘されているように、運航コースが決められている。

 

(5)「AOCの交付は、空飛ぶクルマの商用運航開始に民航局がゴーサインを出したことを意味する。とはいえ、商用運航が(事業採算を見込める)一定のスケールに達するには、まだまだ時間がかかりそうだ。民航局の開示情報によれば、億航通用航空と合翼航空に交付されたAOCは両社が保有する合計6機のEH216-Sを対象に、同一地点から離着陸する飛行に限って許可している。言い換えれば、ある地点から別の地点に乗客を輸送する運航形態は認められていない。そのため、当初のサービスは観光目的の遊覧飛行に限られる見通しだ。

 

民航局によれば、6機の空飛ぶクルマに観光目的の遊覧飛行だけが認められている。これでは、購入しても利用範囲が限定される。

 

(6)「イーハンは、2024年に合計216機のeVTOLを顧客に納入した。だが、現時点でAOCを取得できたのは上述の6機だけであり、ほとんどの機体がテスト飛行の段階にとどまっている」 

 

イーハンは、24年に合計216機のeVTOLを納入した。現時点で、AOCを取得できたのは6機だけである。操縦が難点になっているのであろう。前途遼遠である。