a0070_000030_m
   

日本製鉄USスチールは6月14日、米国政府との間で国家安全保障協定を結んだと、声明で明らかにした。両社は、トランプ大統領が100%の買収計画を承認したため、今後速やかに買収が成立する予定だとした。

 

『ロイター』(6月14日付)は、「日鉄、米政府と国家安全保障協定を締結 USスチール株100%取得へ」と題する記事を掲載した。

 

日本製鉄と米鉄鋼大手USスチールは14日(日本時間)、トランプ米大統領がUSスチールとのパートナーシップを承認したことに関連し、米国政府との間で国家安全保障協定を締結したと発表した。

 

(1)「同協定の下で、日鉄は2028年までに約110億ドル(約1兆6000億円)を投資し、米政府には「黄金株」を発行する。協定にはこのほか、国内生産や通商に関するコミットメントも含まれている。黄金株の詳細は明らかになっていない。日鉄は、パートナーシップの実行に必要な全ての規制当局からの承認を取得したとし「パートナーシップは速やかに成立する予定」としている。日鉄の広報担当者によると、同社はUSスチールの普通株を100%取得する」

 

紆余曲折を経た日鉄・USスチールの100%合併が決定した。これは、日米双方にとって大きな力を発揮する。「鉄は産業のコメ」と言われた地位を半導体へ譲ったものの、製造業の根幹を支えていることに変わりない。安全保障とも深く関わっている。IT化する米国産業の欠陥は、製造業の弱体化にあった。日鉄が、USスチールを合併することで、米国鉄鋼業はもとより、米国産業の強力な支柱になる。

 

日鉄が、USスチールを合併することで、日米経済の分業化がさらに進むであろう。米国は、IT化で高付加価値路線の追求に拍車をかけるが、一方で製造業の空洞化という苦悩に直面している。そのIT産業も、製造業の堅塁を維持してこそ発展可能である。米国は、このバランスを欠いたまま発展してきた。現在の貿易大赤字は、こういう産業間のミスマッチが招いたものだ。この空洞化は、日本製造業が埋めることになろう。

 

ここまで進めば、米国はTPP(環太平洋経済連携協定)へ復帰することだ。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の予測によると、トランプ氏が現在の関税措置を維持するなら、米国がTPPにとどまっていた場合と比べて2030年までで世界経済の規模は1兆ドル(約144兆円)小さくなる。この3分の1強は、米国経済によるものだ。世界の貿易に占める米国の比率は、ずっと低くなる。一方で、中国はほぼ変わらない。結果的に、米国の雇用は69万人分少なくなる、としている。『ブルームバーグ』(6月14日付)が報じた。日米経済の分業化は、米国がTPPへ復帰する道でもある。

 

(2)「トランプ大統領が、日鉄とUSスチールとのパートナーシップを承認する大統領令に署名したことを受け、日鉄は「歴史的なパートナーシップへの力強いご支援に感謝する」とコメント。「米国の製造業を再び偉大にすべく、コミットメントを実行に移していくことを楽しみにしている」とした」

 

日鉄は、USスチール合併に向けて良く粘り通したものだ。「不退転の決意」とは、これを指すのであろう。米国大統領を訴えるという前代未聞のことまで行い、「正義」を貫いた勇気は、日本企業が長いこと忘れていた闘志でもあった。この裏には、日本経済復活という強い信念が見て取れる。日本経済再興という思いには、「鉄は国家なり」という強い自負心が感じられる。日本の高度経済成長をリードしたのは、「八幡・富士」(日鉄)の強い設備投資意欲であった。日鉄は、米国で「鉄は国家なり」を再現させる。

 

(3)「日鉄は、2023年12月に141億ドル(約2兆円)でUSスチールを買収する計画を公表した。ただ、24年11月の米大統領選挙を控え政治問題化、トランプ大統領とバイデン前大統領ともに買収計画に反対姿勢を示し続け、バイデン前大統領は25年1月、国家安全保障を理由に反対の判断を示した。その後、大統領に就任したトランプ氏は、4月に対米外国投資委員会(CFIUS)に対し再審査を命じ、最終判断はトランプ大統領に委ねられていた」

 

日鉄は、USスチールで新製鉄所を建設する。詳細は不明だが、酸素製鉄所とみられる。これまでの高炉による製鉄から一変して、酸素による「化学製鉄」に変わる。これは、世界の製鉄所風景を根本から変えるに違いない。日鉄は、酸素製鉄の研究で世界トップであるだけに、世界鉄鋼業をリードするに違いない。