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中国EV(電気自動車)覇者、BYDのアキレス腱が指摘された。サプライヤーへの支払手形が長期化していたことだ。BYDは、手形決済を遅らせることで金利負担を免れていたことが判明した。乱売合戦をリードしてきたBYDは、サプライヤー負担で急成長を楽しんでいたことになる。中国政府は、この事態を改善させるべく手形サイトの限度を60日に短縮させる。ブルームバーグの試算では、BYDの23年平均手形サイトは、275日に及んだ。まさに「お産手形」(10ヶ月)である。

 

『日本経済新聞 電子版』(6月14日付)は、「中国EV『ツケ払い』膨張 BYD株に売り圧力」と題する記事を掲載した。

 

中国政府が買掛金や手形を駆使する資金繰り策にメスを入れた。電気自動車(EV)産業を手始めに、供給業者への支払期間を60日以内にするよう指示した。仕入れ債務が5兆円にのぼる比亜迪(BYD)は最大年4000億円のコスト増になるとの試算があり、株価は直近1カ月で1割下落した。「ツケ払い」に頼った成長は転機を迎えつつある。

 

(1)「BYDは11日未明、「国家と関係部門の求めに応じ、取引先への支払期限を60日以内にする」。SNSで短い声明を発表した。一部で200日を超えていた支払期間を大幅に短縮するという。支払期間の短縮は上海汽車集団など国有大手のほか、民間の浙江吉利控股集団や小鵬汽車(シャオペン)、小米(シャオミ)といったEVの主力プレーヤーが相次いで表明している」

 

支払手形の長期化は、日本の高度経済成長期と重なる現象だ。200日を超えていた支払期間を60日以内へ縮めるには、大量の借入金をしなければ実現不可能だ。EV業界も転機を迎える。

 

(2)「丸紅中国の鈴木貴元・経済研究総監は「中国の中小企業の資金繰りは厳しい状況が続いており、当局にとって課題」と話す。中国政府が最初にやり玉に挙げたのがEV産業という構図だ。ここ数日、工業情報化省、国家発展改革委員会などが複数の自動車メーカーの経営トップを呼び出したとの情報が流れていた。BYDは、量販車種の価格を2割引き下げるなど、シェア獲得に奔走する。無謀にみえる積極策を可能にしたのは年4割超のペースで伸びてきた販売台数だけではない。「ツケ払い」の急増も資金面の大きな支えとなってきた」

 

支払手形の長期化をする一方で、メチャクチャな値下げ競争を行っていた。手形サイトの短縮は、値下げ競争を不可能にさせる。正常化への第一歩となろう。

 

(3)「BYDは、2020年ごろに独自の電子手形による支払いシステムの運用を本格化し、Dチェーン(迪鏈)と名付けた。Dチェーンは実務上、手形として扱うが、決算書では買掛金に計上しているもようだ。同社の買掛金と手形の合計額は24年末で2440億元(約4兆9000億円)と、19年末の361億元から7倍近くに膨らんだ。25年3月末では2500億元を超えた。これら仕入れ債務の増加がなければ、同期間のフリーキャッシュフロー(純現金収支)はマイナスだった」

 

Dチェーン(迪鏈)とやらは、自社の都合第一の醜い手法である。「共存共栄」という日本的な商慣行はないのだろう。

 

(4)「利便性がDチェーンの普及を促した。供給業者はDチェーンで代金を受け取り、提携金融機関への譲渡もウェブ上で可能だ。「BYDからの支払いは100%Dチェーン」との声があった。習近平国家主席が掲げる「中国製造2025」の実行部隊として、EVや車載電池の開発を担うBYDの信用力は高い。同時に「実質8~9ヶ月ほど」(広東華庄科技)という支払期間の長さへの指摘も供給業者から聞かれた。BYDはDチェーンへの切り替えを進めるなかで、支払期間の延長を供給業者にのませてきたとみられる。中途換金は5~7%の手数料が必要になる。これら供給業者の不満が、支払期間の短縮を求める当局の指示につながった」

 

BYDは、Dチェーンへの切り替えで支払期間の延長を供給業者にのませてきた。中途換金には5~7%の手数料が必要という。これでは、純益が吹飛ぶほどの高い手数料になる。中国産業の弱点が浮き彫りになっている。

 

(5)「支払期間が、60日まで短くなれば、資金繰りへの影響は避けられない。国策企業のBYDにとって銀行融資など代替の資金調達は十分に可能だ。一方、中銀国際の楼佳アナリストは「Dチェーンを銀行融資に置き換える極端なシナリオでは、財務コストは年4000億円増加しうる」と試算する。過度な値下げや支払期間の長さに当局が神経をとがらせ始めた以上、これまでのような急成長にはブレーキがかかるとみるのが自然だ」

 

ブルームバーグの試算では、BYDの23年平均手形サイトは、275日に及んだ。これが60日へ短縮されれば、これまでタダの金利が年4000億円も増える計算だ。大変な減益要因になる。

 

(6)「車載電池の寧徳時代新能源科技(CATL)、スマートフォンの伝音控股(トランシオン)、鉄鋼の鞍鋼、太陽光パネルの隆基緑能科技(ロンジソーラー)には3つの共通項がある。世界シェアで13位の製品を持ち、過去5年で買掛金が2倍以上に増え、株価は伸び悩んでいる。ニッセイ基礎研究所の三浦祐介主任研究員は、「支払期間の短縮は他業種へも波及し、大企業の資金繰りへの圧力は強まる」という」

 

世界シェアで13位の製品を持ち、過去5年で買掛金が2倍以上に増えた大企業は、いずれも手形の長期サイト化により資金繰りに利用してきた。設備投資優先が招いた結果である。