日鉄が、国内市場の縮小化から脱するには、発展性の大きい海外市場開拓が不可欠である。今回の米国USスチール合併は、発展する米国市場へ進出する上で大きな足がかりを得た。一方、人口爆発のインドでは欧州大手と合弁で高炉や製鉄所建設に着手する。
こうして日鉄は、日米印の3極市場を固めて再飛躍へのチャンスを握った。日鉄は、USスチールの吸収合併で粗鋼生産量は世界3位へ接近する。米国での製鉄所建設で、年間の粗鋼生産量1億トンを目指す。実現すれば、世界2位と往年の地位へ復活する。
『日本経済新聞 電子版』(6月14日付)は、「日本製鉄、世界展開へ舞台整う 日米印市場に鉄のトライアングル」と題する記事を掲載した
日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収は、1年半にわたり求め続けた完全子会社化のスキームで決着することになった。鉄鋼業界は、中国発の市況悪化や国内需要の減少から、海外のほかに成長余地は乏しい。新興のインド市場に加え有望な米国市場で名門企業を傘下に収めることにより、日鉄の世界展開への最後のピースが埋まる
日鉄が、強い信念のもと買収を求め続けた背景には、国内市場低迷への危機感があった。日鉄の森高弘副会長兼副社長は、「成長は海外でしか望めない」と断言する。
(1)「日鉄が、持続的成長へ描くグローバル戦略は、母国・日本を軸に成長著しい新興国のインド、そして高級鋼が有望な米国の3市場で鉄のトライアングルを形成するものだ。日鉄は、まず経済が成長基調にあるインドで先手を打った。欧州大手アルセロール・ミタルと19年に現地鉄鋼メーカーのエッサール・スチールを5000億ルピー(当時の為替換算で約7700億円)で買収し、合弁会社AM/NSインディアを立ち上げた。インド西部の製鉄所で高炉の新設工事を進めるほか、南部でも新たな土地を取得し生産能力年700万トン規模の一貫製鉄所の建設を目指す」
日鉄は、インドで欧州大手アルセロール・ミタルと合弁によりAM/NSインディアを立ち上げている。南部でも新たな土地を取得し、生産能力年700万トン規模の一貫製鉄所の建設を目指す。
(2)「日本からの輸出に頼らず需要地に生産拠点となる一貫製鉄所を構築することで、関税などの影響を受けずに価格面でも優位に立ち、現地でのシェアを拡大するのが日鉄の戦略だ。これにUSスチールの生産拠点が加われば、橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)が強調する「新たな時代のグローバルネットワーク」が整うことになる」
日鉄は、人口急増のインドで発展の足場を築いている。鉄鋼需要は、いくらでも増える環境だ。
(3)「最後のピースとなる米国も、有望な市場といえる。性能の高い自動車などの最終製品向けに需要が旺盛な「世界最大の高級鋼市場」(日鉄)であり、日鉄の技術力を生かした鋼材の供給によって利幅を確保しやすい。米国生産には関税も追い風として吹く。トランプ政権は4日に米国内産業保護のため、鉄鋼・アルミニウムの輸入品にかける追加関税を25%から50%に引き上げた」
米国は、世界最大の高級鋼市場である。付加価値の高い製品が、大量に売れる環境だ。しかも50%関税に守られている。日鉄にとっては、これ以上ないビジネス環境である。
(4)「トランプ氏は5月30日に米東部ペンシルベニア州のUSスチール工場での演説で「米国の鉄鋼産業を確固たるものにする」と主張し、高関税で輸入材を締め出す姿勢を示した。既に米国内では関税影響で輸入鋼材の価格が高くなったのを受け、現地メーカーが値段を引き上げているという。日鉄はUSスチールを完全子会社化すれば「高級鋼の製造技術を全部出す」(森氏)としており、米国が大半を輸入に頼ってきた高級鋼などの需要を一気に取り込もうと狙う」
日鉄が、培った高級鋼技術をUSスチールへ移植して、一気に収益化を図る戦略である。日鉄にとってはビッグ・チャンスの到来である。
(5)「世界鉄鋼協会によると、日鉄の24年の粗鋼生産量は4364万トンで世界4位、USスチールは1418万トンで同29位だ。買収により単純合算で、同3位の中国・鞍鋼集団(5955万トン)に迫る規模(5782トン)となる。さらに米国での生産能力拡張に向け、日鉄は28年までに総額で約110億ドル(約1兆5800億円)をUSスチールに投資する計画だ」
日鉄は、今回の合併で粗鋼生産量が5782トンになる。世界4位の規模だが、3位とはわずか173トンの差にすぎない。26年中には、日鉄が世界3位となる。
(6)「日鉄は、年間の粗鋼生産量1億トン、同社が重視する指標である在庫評価差を除く実力ベース事業利益1兆円の目標を掲げる。USスチールを加え日米印市場への展開で早期に実現し、上位の中国勢に対抗できる世界トップ級のメーカーへの返り咲きを目指す。USスチールで現地市場を押さえる戦略には、買収成立前から証券アナリストの間で「関税で守られ、製造業回帰が見込まれる米国は魅力的」との見方が上がっていた」
日鉄の目標は、粗鋼1億トンである。これは、かつて実現していたレベルである。ここまで戻して、「世界の日鉄」の名に恥じない企業への発展を目指す。
(7)「課題もある。日鉄が買収金額以外に「巨額」と称した1兆6000億円に迫る追加投資を実施すると、財務負担は一気に重くなる。「短期的には『割高なディール』と資本市場から判断されると思われる」とする専門家もいる。経営の自由度を担保できるかも問われる。日鉄は米政府と国家安全保障協定を結んだほか、USスチールの「黄金株(拒否権付き種類株式)」も米政府に発行する。日鉄は安全保障協定の概要については「可能となった時点で速やかに公表する」とするが、安全保障上の懸念解消へどのような項目を盛り込んだかが注目される」
日鉄は、短期的には合併負担がかかる。だが、米鉄鋼市場が「温室」であることを忘れてはならない。同じ粗鋼1トンでも米国では日本の2倍の利益が出るはず。長い目でみることだ。荒野をジープで疾走するようなものに違いない。
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