米製造業の衰退プロセス
中間選挙意識で過剰要求
製造業復活に日本が必要
日米共同で供給網作りへ
日米関税交渉は当初、カナダのG7首脳会議(6月16~17日)における日米首脳会談で決着をみると期待されていた。結果は、さらなる閣僚間の折衝に委ねられた。実質的には、「決裂」である。米国が土壇場で、米国内での半導体・医薬品の設備投資を求めてきたからだ。いずれも、日本を代表する輸出品ではない。それにもかかわらず、自動車関税引下げの見返りに、前記業種の投資を求めてきた。
日本側は、想定もしていなかった事態だけに対応する術がない。米国が、こういう無理難題を持ちかけてきた裏には、日鉄のUSスチール合併問題で「味を占めた」のであろう。日鉄が、米国側の要求をすべて受け入れたからだ。米国は、二匹目、三匹目の「ドジョウ」を狙っている。だが、日本に米国へ譲るドジョウはもう存在しないのだ。
日鉄がUSスチールを買収する際に、米国政府は「国家安全保障協定」に基づく黄金株制度を導入し、重要事項に関して拒否権を行使できる形を取った。この成功が、米国の交渉戦略に自信を与えたとみるべきだろう。となると、日本は今後の関税交渉で苦境に立たされる。日鉄の一件落着で安心したら、次なる「壁」が現れた形だ。
日本は、輸出トップが自動車である。それだけに、米国はその関税を引下げる以上は、さらなる条件を突きつけても日本が飲むであろうという見立てである。
日本の医薬品は、世界生産ランキングで米国、中国に次ぐがドイツも急追しており4位へ退くともみられる。米国が、医薬品世界1位でありながら、日本へも投資を迫るのは「手当たり次第」という印象を与える。
半導体は、国策企業ラピダスが最先端「2ナノ」の試作に取組んでいることに目を付けたものであろう。7月から試作開始という「産声」を挙げる前から、次なるラピダスの設備投資は米国で行えという「乱暴な」要求である。ラピダス「2ナノ」半導体は、米IBM技術を世界で初めて製品化する難事業である。韓国サムスンも挑戦して失敗したいわく付きである。米政府は、この貴重な「ノウハウ」を横取りしようとの企みを始めている。まことに、米国らしからぬ要求である。
このように、医薬品や半導体まで米国での投資を要求するのは、同盟国に対して根本的な疑念を抱かせる行為である。米国が、同盟国とともに発展する「共存共栄」の立場を忘れて、露骨な「米国第一主義」の表れとみるべきである。日本は今後、米国のこうした無差別な要求に対してどのように対応すべきかが、問われる事態となった。ここは、日本として受入れられるものと、受入れられないものを峻別して対応するほかない。
米製造業衰退のプロセス
米国が、日本へ無法な要求を出すまでになった、製造業の「落ちぶれた」背景をみておかなければならない。
トランプ米大統領が、常識を外れた高関税を課すきっかけを与えたのは、レーガン大統領時代(在任期間1981~89年)に始まる。レーガン政権は、1980年代にさまざまな方法を用いて鉄鋼と自動車の輸入を制限し、国内メーカーに自らを改革するための時間を与えた。だが、米国メーカーは合理化ができず、日本企業に惨敗した。要するに、関税保護は企業を強化せず、労組を喜ばせる高額賃上げを促進するだけで終った。労組は、本質的に高関税を志向する後ろ向き集団である。政治が、これをうまく利用している形だ。
米国の鉄鋼や自動車は、すでに40年以上も敗北の連鎖を続けている。現在、国家的で大掛かりな敗北を招き兼ねないトランプ関税の起源は、レーガン時代に始まったものだ。こうした間違いの過程を経て、24年の米貿易赤字は1兆2000億ドル(約170兆円)にも達した。うち、鉄鋼、自動車、機械、電気機器、医薬品が占める割合が、合計77.5%も占めている。
トランプ氏は、元米大統領ニクソンに私淑していた。ニクソンが引退後、手紙のやりとりがあったほどだ。ニクソンは、1971年に「輸入課徴金」(関税:ニクソン・ショック)を持出し、「米国ファースト」第1号となった。トランプ氏が、関税引上げへ強い関心を寄せる原点はニクソンにある。米国製造業衰退の淵源を求めると、ニクソンの保護貿易主義まで遡るのだ。
トランプ氏の場合、関税引上げが当該業界を弱体化させるというマイナス要因に目を向けず、「引上げ幅が足りなかった」という誤った拡大解釈である。これが、世界一律関税などへ暴走させた理由である。問題は、こういうトランプ的発想が、「新保守主義」の名の下に体系化される気配が強いことだ。共和党政策として、引き継がれる危険性が極めて高い。関税が、製造業を守るという錯覚に囚われているのである。
米国の関税引上げは、鉄鋼や自動車から始まっている。20世紀の米国経済を牽引した「リーディング・インダストリー」であるからだ。それだけに、業界は過剰な自信に陥っていた。生産が振るわないのは、日本が不当な価格競争を挑んでいる結果としてきた。こうした中で、自分たちの優位性喪失はあり得ないと夢想し、根本的に経営方法を変えることはなかった。当時、世界一のGM(ゼネラルモーターズ)は、トヨタ生産方式を学ぶ振りをしただけで終った。経営の根本を改めず、ロボット依存で大量の設備投資を行い自滅した。
全米鉄鋼労組(USW)と全米自動車労組(UAW)は、米国の輸入制限を単に自分たちの雇用と、日本の2倍だった賃金を守るための手段としか見ていなかった。両労組は、時代遅れの職務区分を見直して、従業員1人の作業の中に複数の業務を組み入れる生産性向上の取り組みにも抵抗した。トヨタ方式に反対したのだ。
以上の経緯で分るように、米国にとって日本の自動車が、「目の敵」的存在であった。トランプ氏は、在野時代に日本批判の急先鋒であった。「日本悪者説」に凝り固まっていた。その余韻が、今や安倍元首相という緩衝材がなくなって、増幅しているのであろう。トランプ氏の日本批判の根が、極めて深いことを記憶しておくべきだ。(つづく)
https://www.mag2.com/m/0001684526


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