中国政府は、通販業者の値引き競争が不況の原因と断定し、値引き競争禁止令を出した。この問題は、過剰生産による生産者物価指数(PPI)のデフレ状況が、消費者物価指数(CPI)押下げているもの。PPIの3年近いマイナスは、政府補助金による過剰設備がもたらした結果だ。政府の行うべき政策は、設備投資への補助金支給を中止して、企業に赤字を脱する努力を迫ることであろう。政府の命令で、中国経済が円滑に回るわけでないのだ。
『日本経済新聞 電子版』(7月4日付)は、「中国・習指導部、ネット通販の過剰値引き禁止 デフレ抑制へ価格統制」と題する記事を掲載した。
中国政府は、インターネット通販における過剰な値下げ販売を是正する。プラットフォーマー大手が出店者に原価割れでの販売やサービス提供を強要することを禁じる。消費の不振に伴って強まるデフレ圧力を抑えるため、価格統制に乗り出す。
(1)「全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会が6月27日、規制内容を盛り込んだ改正反不正当競争法を可決した。10月15日に施行する。対象となるプラットフォーマーは通販事業者のほか、中国で普及する配車や出前サービスを手掛けるアプリ運営企業も含む。出店者らに経費を下回る価格での販売やサービス提供を強要するといった「市場の競争秩序を乱す」行為を禁じる」
市場の競争秩序を乱すな、と政府は命令した。ならば、ダンピング輸出はどうか。これこそ、禁じるべきことだろう。
(2)「中国の不動産不況は4年近くに及び、将来不安を抱く家計に節約志向が浸透している。通販市場では値引き競争が過熱。2023年末から今春にかけて、商品を返品しなくても消費者に返金する事例もみられた。出店者に負担を押しつける過度な顧客サービスに対し、規制当局の中国国家市場監督管理総局は24年11月、複数のネット通販業者に是正を指導した。同局はプラットフォーマーが出店者から徴収する手数料も問題視する。24年末に手数料を規制する指針の作成方針を明らかにし、25年5月末にその案を公表した。手数料は「出店者の経営状況を考慮した合理的な水準」に設定するよう求めた」
この問題は、独占禁止法が当てはまる。なぜ、この運用をしないのか。政府命令のほうが、威令が効くと考えているのだろう。要するに、法の適用を間違えている。あたかも、政府が零細企業の味方のように振る舞う政治効果を計算しているに違いない。
(3)「資金力が乏しい中小零細企業や個人事業主に、高い手数料を払わせる例も多いためだ。小規模な出店者も利益を確保しやすくし、中小企業の従業員や個人事業主による消費を促す狙いもある。プラットフォーマー各社は指針公表に先立って手数料の引き下げに動いた。規制への対応が遅れると、独占禁止法違反といった名目で巨額の罰金を科される恐れがあるためとみられる」
政府が、メーカーへ支給している補助金を取り止めて、社会福祉へ回すべきだ。需要の刺戟が今、最も求められている。
(4)「動画共有アプリの「抖音(ドウイン)」は通販事業を見直し、出品初期の手数料をゼロにしたり売上高に応じた保証金を引き下げたりした。これまでに出店者の負担を110億元(約2200億円)以上、減免した。低価格帯の商品に強い「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」や海外向け通販「Temu(テム)」を手がけるPDDホールディングスも今後3年間で1000億元分の手数料を減免する方針を掲げる。政府がネット通販における過剰な値引きの禁止や出店する中小零細企業などの利益確保に動くのは、習近平指導部がデフレ圧力の強まりを危惧している表れと言える」
消費の刺激には、雇用不安の解消が有効である。こういう筋道の通った政策を忌避している。経済政策の根本を間違えているのだ。
(5)「習国家主席(共産党総書記)が7月1日に主宰した党中央財経委員会も「企業の無秩序な低価格競争を規制する」方針を確認した。国内需要の回復が遅れるなか値引き競争を放置すれば、物価が一段と下がるデフレスパイラルに陥る可能性も否定できない。中国国家統計局によると、1〜5月の消費者物価指数(CPI)は前年同期を0.1%下回った。ガソリンのほか自動車や家具・家電といった耐久財の値下がりが続く。通年でも下落すればリーマン・ショック後の09年以来となる」
「企業の無秩序な低価格競争を規制する」政府が、世界にあるだろうか。企業が、低価格競争に陥るのは、需要が不足しているからだ。小手先の政策で、需要が回復するはずがない。中国は、日本が経験してきた「コストカット」競争に陥っている。
(6)「政府は、デフレ対策として価格統制を強めるが、景気の停滞が長引く根本原因である不動産不況に対処する抜本策はみえない。6月の卒業シーズンが終わって大学生らが労働市場になだれ込み、若年層を中心に就職難は深刻さを増す公算が大きい。消費者の財布のヒモが固いままではデフレ圧力は消えない」
経済は、正攻法でなければ破綻する。中国は、補助金漬けの政策に陥っている。政府が干渉しない市場ルールに戻る好機である。
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