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いつの時代でも技術への正当評価には時間がかかる。国策半導体企業ラピダスに対し、これまで多くの中傷や批判が浴びせられてきたが、政府は技術進歩を見抜いて全面支援体制を敷いている。日本の「お宝企業」という位置づけである。

 

経済産業省は7月4日、最先端半導体の量産をめざすラピダスに政府が出資する条件を明らかにした。重要事項について拒否権を持つ黄金株の発行を求める。外資による買収など経済安全保障上のリスクに備えるものだ。これで、ラピダスは早期の株式上場を前提にしていることが分った。

 

『日本経済新聞 電子版』(7月4日付)は、「政府、ラピダスの黄金株保有へ 重要事項に拒否権で安保リスク備え」と題する記事を掲載した。

 

経済産業省は4日、最先端半導体の量産をめざすラピダスに政府が出資する条件を明らかにした。重要事項について拒否権を持つ黄金株の発行を求める。外資による買収など経済安全保障上のリスクに備えるものだ。改正情報処理促進法の告示に明記する。8月中旬の施行を予定する。

 

(1)「改正情報処理促進法は、独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)を通じた政府出資などを主な内容とする。事実上、ラピダスのみを対象に想定している。経産省は25年度予算で1000億円を確保している。実際に出資する際は、安定した営業黒字化を維持できるかどうかや、民間からの資金調達が見込めるかなどを審査する。重要技術の流出防止対策も要件とする。改正法の付帯決議は、黄金株の保有を検討するよう求めていた。ラピダスの小池淳義社長も国会の参考人招致で「黄金株のような形を政府と詰めている」と語っていた。具体的な権限は今後、詰める」

 

ラピダスは、7月以降に「2ナノ半導体」試作品が登場する。政府は、これに合わせてラピダス支援の全面体制を整える。すでに5月14日、「ラピダス支援法」と呼ばれる改正情報処理促進法が公布された。また、日本政策投資銀行(DBJ)の投資期限を延ばす改正政投銀法が成立。2025年度後半から、ラピダスへ政府出資1000億円が入る。これによって、ラピダスの後ろ盾が日本政府であることを明白にして、円滑な資金調達を加速させる計画だ。

 

ラピダスは、総額5兆円規模の投資が必要とされる。それには、ラピダスが政府支援企業であることを明確にして、民間からの出資や融資を軌道に乗せなければならない。こうした政府支援にメディアや一部の識者が、ラピダスの技術進歩の実態を理解しないまま、「政府保護は時代遅れ」といったワンパターンの批判を繰返してきた。これは先端半導体が、経済安全保障上において不可欠という認識欠如のもたらしたもの。こうした批判こそ、時代遅れという印象を深めた。

 

(2)「改正法は、民間融資への政府保証も盛り込んだ。黄金株も含む政府出資とあわせ、国策として半導体産業の再興を進める色彩が一段と濃くなる。国が安全保障や国民生活を左右する事業を担う企業の経営で拒否権を持つケースは複数ある。たとえばNTT法は政府にNTT株を3分の1以上保有する義務を課している。郵政民営化法も同様に日本郵政株について3分の1超と規定している。政府保有の黄金株としては資源開発大手INPEXの例がある。黄金株は、日本製鉄による米USスチール買収の決め手の一つにもなった。USスチールの社外取締役1人の選任権や国家安全保障協定の監督権を米政府に与えた。安保協定は、社名や本店所在地の維持、約110億ドルの設備投資のほか、許可なく生産能力を削減しないことなど多岐にわたる」

 

ラピダスは、政府へ金庫株を与えることになった。これから本格化する融資拡大や株式上場で、多くの資金が吸い寄せられてくる。その際、ラピダスの技術窃取を狙った動きも想定しなければならない。政府は、こういう不穏当な株主を排除するにはラピダスの金庫株を保有することが不可欠と判断した。金庫株は、日鉄のUSスチール子会社化で、米国政府の根強い反対論を突破すべく、日鉄側が自主的に金庫株を米国政府へ与えたという経緯だ。

 

日鉄は、この金庫株が「有名無実」と判断している。だが、ラピダスの金庫株はそういう形式的なものではない。実態において、ラピダスの技術や所有権を守るという強い意志を明確にするものだ。