イランは、IAEA(国際原子力機関)への監視活動の協力停止を決めた。これ受け、IAEAは7月4日、イランに残っていた査察官を撤退させた。IAEAの査察官が、イランから完全に排除されるのは、20年前のウラン濃縮開始以来初めてで、核計画に対する透明性が一層失われる事態となった。
『ブルームバーグ』(7月5日付)は、「IAEA、イランから査察官全員引き揚げ-核計画の把握さらに困難に」と題する記事を掲載した。
IAEAは5日に発表した声明で、全ての専門家がウィーンの本部に到着したと明らかにし、「イランとの協議を可能な限り早期に再開することが非常に重要だ」と強調した。匿名を条件に語った欧米側の外交官によると、撤退は、イランで可決された新法により、国際的な核監視活動が刑事罰の対象となる恐れがあるためだという。
(1)「査察官の撤退は、欧米諸国からの強い反発を招きそうだ。イスラエルが6月13日にイランの核施設や軍事拠点への空爆を決定したことで、IAEAの監視体制は事実上断絶され、イランの核兵器開発能力を巡る検証は不可能な状況に陥っている。IAEAに認可された274人の査察官らは、これまで核弾頭10発分に相当するイラン国内の高濃縮ウラン409キログラムの所在を把握していたが、現在その保管場所は不明となっている」
イラン国内の高濃縮ウラン409キログラムは、核弾頭10発分に相当する。これまで、IAEAの監視体制によって所在が把握されてきた。だが、今後は査察官の撤退でそれも不可能になった。
(2)「イランは、高濃縮ウランの所在が不明という状況を、再攻撃への抑止力として利用したり、外交的な主導権を握る手段としたりする可能性がある。米国とイスラエルがそのウランの状態と所在を把握するには、物理的な査察と検証が必要で、そのためにはIAEAのアクセスを再交渉する必要があるとみられている」。
イランは、IAEA査察官の受入れ拒否によって、高濃縮ウランの所在を不明にするという「曖昧戦略」で、イスラエルや米国の再攻撃を防ぐ方法を選ぶのではないかとみられる。
『ブルームバーグ』(7月2日付)は、「イラン、核開発巡り深める沈黙-『戦略的曖昧さ』で主導権狙う」と題する記事を掲載した。
6月のイスラエルと米国による攻撃以降、イランは核開発の計画を従来以上に厳重に秘匿しており、米国との外交的対立にさらなる不透明さを加えている。核計画の現状についての国際社会の理解を曖昧にする手段として、イランは「沈黙」を活用している。
(3)「匿名を条件に語った関係者2人によると、イランが先週、国際原子力機関(IAEA)による査察を正式に打ち切った後、同国の原子力安全当局は現在、IAEAからの連絡にも応じていない。IAEAの事故・緊急時対応センターは6月13日以降、イラン側と継続的に連絡を取り合っていたが、情報共有は途絶えている。これまでイランは、IAEAによる1日平均1回以上の査察を受け入れ、核開発活動を巡り米国と5回の交渉も行っていたが、イスラエルの攻撃で状況が一変した」
イランは、IAEAとの関係を完全に遮断した。
(4)「イランには理論上核弾頭10発分に相当する、409キログラムの高濃縮ウランが存在するとされるが、その所在も不明だ。大型スキューバ用タンクほどのサイズのシリンダー16本に分けて保管可能なことから、未申告の場所へ移送された可能性も排除できない」
409キログラムの高濃縮ウランは、大型スキューバ用タンクほどのサイズのシリンダー16本に分けて保管可能という。
(5)「IAEAによる監視再開の見通しが立たない中、米イランの政策担当者たちは、冷戦時代の核の瀬戸際外交で重要な要素だった「戦略的曖昧さ」と呼ばれる手法に再び目を向けている。ノーベル経済学賞受賞者のトーマス・シェリング氏らが提唱したこの理論では、意図に関する不確実性をあえて残すことで、対立相手が全面戦争へと踏み出すのを防げるとされている」
イランは、「戦略的曖昧さ」戦術に出るとみられる。米国は、これに対してどう対応するのか。見送るのか、再度の決行か、だ。
(6)「戦争再開は、決して単純な話ではない。イスラエルのスモトリッチ財務相は先週、12日間の戦争のコストが最大で120億ドル(約1兆7200億円)に達した可能性があると述べた。国内の損害額も約30億ドルと、イスラエルの歴史上最大規模の衝突となった可能性があるという」
イスラエルは、12日間の戦争のコストで最大120億ドル(約1兆7200億円)に達し可能性がある。イランに対して、再度の攻撃は相当のコストを覚悟しなければならない。
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