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世界経済はここ3か月間、関税を巡るトランプ米大統領の発言が二転三転する中で不透明な状況が続いている。7月9日には、その行方が明らかになる。トランプ氏が、掲げる貿易合意の締め切りが到来するためだ。

 

トランプ氏は、日本への不満を強めている。日本の自動車輸出額を相殺すべく米国からのコメ輸入増加を迫っているからだ。だが、日本は米国への直接投資残高が世界一という実績を強調している。対米貿易黒字は、米国への直接投資によって還元し、米国の雇用増加に寄与しているからだ。トランプ氏には、こういう日本の「貿易黒字還元」について全く無理解である。

 

『ブルームバーグ』(7月6日付)は、「石破首相、米関税交渉で『安易な妥協せず』ー自動車税率はゼロ求める」と題する記事を掲載した。

 

石破茂首相は6日、上乗せ関税の一時停止措置期限が9日に迫っている対米関税交渉について、安易な妥協はしない姿勢を改めて示した。自動車関税は引き続き税率ゼロを求めていく方針。NHKとフジテレビの党首討論番組で語った。

 

(1)「石破首相はNHKの「日曜討論」で、関税交渉について「国益をかけて、ものすごくギリギリの交渉を精力的にやっている」とした上で、「安易な妥協はしない。だから時間もかかるし、厳しいものになる」と述べた。トランプ米大統領は4日、貿易相手国・地域に対して関税率を記した12の書簡を7日に送付すると表明。具体的な送付先は示していないが、関税率は最大で70%になる見通しだ。1日には、日本に対する一律関税について「30%や35%」といった数字を挙げ、「日本と合意できるとは思えない」としていた」

 

トランプ氏は、日本が米国からの輸入額をいくら増やすかと言った「目先」の話に焦点を合わせている。米国製造業は、日本の協力によってどこまで強化できるかという高次元の話でないのだ。これでは、日米交渉が難航して当然であろう。「MAGA」(米国再強化)という標語は、完全に目先の「ソロバン勘定」になった。これでは、本当のMAGAが実現しないだろう。腰砕けだ。

 

(2)「石破首相はフジテレビの「日曜報道」で、書簡が日本に届いた際の対応を用意しているか問われたのに対し、「あらゆる場合に備えている」と指摘。25%の税率が適用されている自動車について、引き続き税率ゼロを求めていくのかとの質問に、「そうしなければ交渉にならない。最初からここは妥協しますと言っていては交渉にならない」との認識を示した」

 

日本は、7月20日に参院選である。劣勢と伝えられる石破政権にとって、農業を犠牲にする形の妥協はできないであろう。幸い、米価が先行き急落する見通しが強くなってきただけに、米国米輸入の切迫感が消えつつある。米国をどうやって納得させるのか。切り札探しに必死である。

 

(3)「日本は世界最大の対米投資国であり、雇用創出国だとも訴えた。他の国が妥協したから、日本も妥協とはならないとし、「他の国とは違うということをよく認識してやっていく」と語った。内閣官房は5日、米関税措置を巡る交渉を担う赤沢亮正経済再生相とラトニック米商務長官が、同日までに2度にわたって電話会談を行ったと発表した。米関税で日米の立場を改めて確認して「突っ込んだやり取り」が行われ、引き続き米側と精力的に調整を続けていくという」

 

日本の対米直接投資残高は、2023年時点で約7833億ドルであり、5年連続で米国最大の投資元である。これによって、約100万人の雇用を実現している。今後、日鉄のUSスチールへの直接投資が増えるだけに、日本は「断トツ」の対米投資国になる。こういう日本に対して、トランプ氏の発言(日本への関税をもっと引上げる)は「恫喝」そのもの。常軌を逸した発言と言うほかない。

 

赤沢亮正経済再生相は、5日までにラトニック米商務長官と2度にわたって電話会談を行った。上乗せ関税の一時停止措置が切れる9日を前に、立て続けに協議した。米国が、仮に日本へ不当な関税をかけることがあれば、日本の対米好感度は下がるであろう。トランプ政権との距離感が生まれることは、決して好ましい事態でない。