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手形期日60日の威力

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中国式社会主義に幕?

 

中国国家主席の習近平氏は、内外で頻りと「8月辞任説」が報じられた。結果は、9月初頭の上海協力機構を中国・天津で開催し、健在ぶりをアピールした。9月3日には、その余勢を駆って天安門広場で1万5000人の中国人民解放軍兵士と最新武器による軍事パレードを挙行。ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記と並んで、内外に習氏の威厳をみせつける形になった。これを見る限り、習氏の権力にいささかの陰りもないようようである。

 

8月辞任説は、根も葉もない話でなかった。それが、政策の変化面に現れている。辞任説の飛び交っている間に、党内で習氏へ政策変更をせまる圧力が掛ったいくつかの証拠がある。中国共産党は、「一枚岩」をことさら強調する。党内分裂の印象を避ける目的だ。それだけに、騒ぎは表面化しなかったが、その裏で習氏も、妥協を迫られたのだ。こういう過程を経て、6月以降の経済政策は確実に変った。経済の実勢悪に応じたもので、習氏は従来の野放図な拡大政策を放棄させられたのだ。

 

習氏が、製造業の拡大を放棄せざるを得なかったのは、台湾侵攻を見合わせたことであろう。習氏は、国家主席在任期限となる27年に、台湾侵攻作戦を始める準備を重ねてきた。肝心の人民解放軍内部は、ガタガタである。軍のトップ幹部3人が追放同然であり、後任も決められない状態だ。司令官クラスの人物不在では、円滑な作戦指揮など取れるはずもない。軍内部の「開戦サボタージュ」派が、こういう人事混乱を引き起しており、台湾侵攻を棚上げするほかなかったとみるべきだ。

 

台湾侵攻が棚上げとなれば、製造業拡大による設備過剰は不必要になる。開戦に伴う軍事需要が消えれば、過剰設備は無用の長物。経済を圧迫するだけとなるからだ。こうして、中国は一転して過剰投資の抑制に動き出したと読めるであろう。「平和路線」を模索し始めている。人民元高によって、米国の「ドル安政策」へ協力する姿勢もみせ始めた。米中対立の緩和化である。

 

手形期日60日の威力

習近平国家主席は7月、共産党の経済政策機関である中央財経委員会で「無秩序な値下げ競争」をやめるように呼びかけ、「時代遅れの生産能力の秩序ある撤退」を求めるまでに変った。これは従来の警告と異なり、強制力を持たせている点で異なる。すでに6月1日から、支払小切手期日の「60日規制」を実施して、野放図な経営拡大政策への歯止めを行なっていた。

 

ここまでに至る経緯は、微温的なものに止まっていた。2023年頃から、EVや太陽光パネル、鉄鋼などの分野で過剰生産による価格低下が問題視されていたが、格別の政策が発動されることはなかった。ただ、このころから「内巻式競争(底辺への競争)」という言葉が使われ始め、値引き競争への自主規制を呼びかける動きは始まっていた。

 

企業に対する自主規制という形の呼びかけでは、過剰生産による価格低迷は終らなかった。現に、この7月で生産者物価指数は連続33ヶ月の下落である。よくもこれだけ、長期にわたって放置していたものと驚くのだ。経済では、強力な対策も打たない「無政府状態」に陥っていた。今回の中央財経委員会における習氏の発言は、従来と変って中央主導によるトップダウンを意味する。習氏が、過剰生産による価格低下を、真剣に止める意思を明らかにしたのだ。

 

これまでは、半ば放任した形の自主規制が失敗に終わり、習氏は党内から批判圧力を受ける結果となったのだろう。今回の中央主導によるトップダウンは、明らかに路線修正である。習氏が、追詰められたのだ。なぜ、過剰生産を止める決断を下すまでに、これほど長い時間を要したのか。習氏は、自らの終身国家主席にかかわる台湾侵攻作戦を諦めきれずにいたのであろう。それが、ついに限界を迎えたのだ。台湾侵攻が物理的にも不可能という結論になったに違いない。その理由は、これまでの私のメルマガで種々、取り上げた。

 

6月1日から、「手形サイト60日規制」が強制的に行なわれた。だが、事前に「試験区」のような予備作業は行なわれず「ぶっつけ本番」である。これまでの中国では、こうした大きな影響を与える制度変更では、事前準備がされたものだ。今回これがなかっただけに、習政権へ大きな圧力が加えられたとみるほかない。習氏に対して、失敗(経済混乱)が起これば責任を追及する。こういう「反習派」の結束を認識するほかない。

 

中国上場自動車企業の買掛金回転日数(支払手形サイト)は、2022年当時で平均156日。これは日本やドイツの60日以内と比べて、かなりの長期である。今回の「60日規制」は、業界慣行を根本から変えるという意味で大きな決断である。この変化は、単なる制度改正ではなく、中国経済の「信用と流動性」の再設計とも言える節目と捉えられている。平均156日とすれば、60日規制は6割の短縮だ。不況下の売上不振の中で、これを実現するのは極めて困難であろう。

 

手形サイト60日規制の狙いは、大企業の無軌道経営を正して、中小企業経営を救済する目的である。これまでの産業政策は、大企業優先であった。それが、GDP成長率を押上げる上で「ベター」という判断に基づいてきた。現実は、野放図な過剰生産をもたらして、生産者物価指数の長期停滞に繋がり、デフレ経済の元凶になった。こうした矛盾がいま、中国経済を根底から蝕んでいる。「物価は安いほど良い」。これは、習氏の持論である。こうした無理解が、長期にわたり経済路線の修正に手を付けさせなかった。(つづく)

 

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