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貧困化する家計を救え

法人減税効果はゼロに

「経済底上げ」が急務

1000万所帯へ夢を

 

自民党総裁選が、10月4日に投開票される。5人の候補者が、それぞれ抱負を述べているものの、英国経済紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』(9月26日付)は、「全体像を見据えたビジョンが欠けている」と批判している。FTはまた、単なるリーダー選びでなく、ビジョンの選択の機会であるとも指摘。確かに、ビジョンが競われなければならないであろう。

 

戦後の日本政治では、池田勇人内閣が「国民所得倍増計画」(1960年)を提示して、高度経済成長の口火をきった。「10年後に欧州並みの賃金」という目標は、戦後の荒廃から立ち直りつつある日本国民へ大きな希望を与えた。欧州並みの賃金は、当時の日本国民にとって夢のような話であり、企業は一斉に設備投資に踏みきり、雇用は一挙に拡大した。

 

あれから65年の歳月を経た日本経済は、持続的な物価上昇と財政難や少子高齢化などに直面している。当時と現在では、状況が180度も変った。高度経済成長時代の企業は、絶えず資金不足に悩み内部留保(利益剰余金)を貯め込む余裕などゼロであった。だが、現状は大きく変貌している。企業が内部留保で「満腹」状態だ。この夢のような状況をもたらした理由は、二つある。

 

1)2011年から始まった法人税率の引き下げ。

2)企業による設備投資と賃金引き上げへ消極的。

 

法人税率の引下げは、世界的な潮流になっていた。2008年のリーマンショックによって、世界経済が萎縮していたからだ。そこで、法人税率を引下げて、設備投資を刺激し賃金を引上げるという政策目標を共有した。日本は、2011年の30%から現在の23.2%まで段階的に引き下げてきた。しかし、設備投資も人件費も目立った増加にならなかった。「失われた20年」がさらに延長して、「失われた30年」という事態を招いただけに終った。企業が豊かになる反面、家計が貧しくなったのだ。

 

これは、日本だけの現象でなく、先進国共通の現象でもあった。法人税減税によって、設備投資も人件費もほとんど増えないことが分ったのだ。ならば、法人税減税は目標の効果を上げていない以上、いつまで惰性で継続する必要性はないはず。見直すべきであろう。

 

貧困化する家計を救え

日本は今、新しい政策ビジョンを打立てる絶好の位置に立つ。結論を先に示すと、法人税率を元の30%へ戻すと同時に、それによる歳入増加分(23年度法人税収では3.9兆円)を、所得5分位の最低層(平均所得130万円)の人たちへ再分配することによって、1000万所帯(全体の20%)が底上げされるのだ。これは、国民所得倍増計画と逆の発想である。日々の暮らしで苦しむ人たちの生活を押上げることで、前述の「持続的な物価上昇と財政難や少子高齢化」問題を解決に向けて大きな一歩を踏み出すことになるからだ。

 

AI(人工知能)の普及によって、高所得層との格差が一段と進む気配である。現に、すでに米国で起こっている。大衆の購買力が落ちているにもかかわらず、高所得層の高額消費によって、マクロ指標では「消費堅調」という結果になっている。これは、「誤りのシグナル」である。日本で、こういう事態を避けるにはどうしても「経済底上げ」政策が不可欠である。

 

ここで、現在の日本経済にとってなぜ、「経済底上げ政策」が必要であるかを改めて考えみたい。それは、「国民所得倍増計画」当時と現在では、日本経済の体質が180度の変化をしていることだ。

 

具体的に言えば当時、人口の逓増時代で農村には「遊休労働力」が豊富であった。賃金引き上げは、農村の遊休労働力を工業労働力へ転換させる上で大きな力を発揮したのである。産業政策では、雇用吸収力の大きい自動車と家電の両業界がモデル業界として、政府支援を受ける形になった。こうして、農村の遊休労働力が工業部門へ再配置され、高度経済成長が始まった。

 

現在はどうか。人口の逓減時代を迎え、少子高齢社会へ突入している。こういう環境下では、政府による所得再配分政策が極めて重要になる。人口高齢化のなかで、自ら働く稼得能力は著しく低下しているからだ。所得第1分位(所得の一番低い層)は、自らはどうにもならなくなっている人たちであり、ここへ政策の光を当てることが、日本経済の底上げに大きく寄与することは間違いない。その具体的なデータは後で示す。

 

日本のGDPに占める個人消費比率は、2013年の58.14%がピーク。23年は、54.56%まで低下している。一国の経済運営では、個人消費比率が高いほど経済が安定すると理解されている。ちなみに米国は、67.90%(23年)だ。日本経済の安定性を高めるには、個人消費比率の引上げが不可欠である。それには、「経済の底上げ」が前提になる。高度経済成長時代は、設備投資が景気を牽引した。現在は、個人消費の引上げが日本経済を牽引するという変化が起こっている。この構造的違いを、明確に認識することだ。

 

ここで、象徴的な事例を挙げなければならない。それは前記の通り、日本の個人消費比率のピークが2013年で、その後は低下している。この事実と法人税率引下げが無縁でないのだ。企業は法人税減税にもかかわらず、賃上げも設備投資も積極的に行なわなかった。減税分を内部留保としてため込んだのである。設備投資を積極的に行なえば、必ず雇用増があるはずで賃上げにも繋がったはずだ。そういう有機的な関係が一切、みられないことで、法人税減税が「無駄」であったことを示している。詳細なデータは、後で示したい。

(つづく)

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