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中国経済の生産性に赤信号

過剰生産が経済の命取りへ

ソ連崩壊時と酷似する状況

価格急落が最大の危機告知

 

中国は、10月20〜23日に党の重要会議である「4中全会」を開催。第15次5カ年計画(2026〜30年)を討議する。これまで、14次にわたり5カ年計画を立ててきた。70年にも及ぶ、超長期の経済計画の「続編」を検討するのだ。

 

経済計画は、政府が資源配分を決める統制経済である。これをテコに、中国は右肩上がりの経済成長を続けてきた。資本主義経済に随伴する、景気循環とは無縁の成長一辺倒の経済である。一見、効率的経済にみえるであろうが、現実は全くの逆である。

 

資本主義経済は、景気循環の下降局面において一時的な過剰在庫を整理し、新たな技術開発をテコに成長経路を模索するものだ。この結果、過剰在庫は整理され「身軽な状態」で新たな経済発展経路を歩んできた。計画経済は、竹にあるような「節」がない「のっぺらぼう」状態である。これが実は、大きな問題を孕んでいる。過剰生産=過剰在庫という「慢性疾患」である。

 

中国経済は、70年間にわたり自動的景気循環を経験せず、補助金に支えられた「供給力先行」経済路線を歩み、膨大な無駄な投資を行ってきた。実態は、温室経済である。これにより、投資を増やしてもさほど利益を生まない経済をつくり上げた。2021~25年の中国経済は、資本投入量が約34%増である。だが、技術進歩率(全要素生産性)は、「ほぼゼロからマイナス」状態へ落込んでいる。債務の増加によって経済を拡張させる、最悪事態へ落込んでいるのだ。詳細なデータは、後で示したい。

 

習近平国家主席は、新三種の神器として「EV・電池・太陽光パネル」を増産させた。だが、過剰投資=過剰生産=価格暴落によって惨憺たる結果に終った。習氏は、次なる産業として「AI・半導体」などに焦点を合わせている。これも、過剰生産によって価格暴落の道を歩むであろう。経済成長に余り寄与しない「お祭り騒ぎ」に終るであろう。根本原因は、政府補助金が過剰生産を生むからだ。これが、計画経済にまつわる最大の欠陥である。ソ連経済は、こういう悪弊によって自滅した。中国経済も、この方向へ進んでいる。

 

中国経済の生産性に赤信号

中国経済は、前述の通り2021~25年の技術進歩率(全要素生産性)が、ほぼゼロからマイナス状態と推計されている。原因は、補助金による過剰生産によるものだ。今少し説明すると、「過剰生産在庫増加資本効率低下全要素生産性悪化」という過程である。量的成長を急いで補助金を支給しても、その結果は全く逆になっている。「くたびれ儲けの銭失い」という最悪事態である。これが、計画経済にまつわる最大の欠陥だ。

 

不吉な点は、ソ連経済崩壊末期においても同様の状況が起こっていた点である。1980~89年の技術進歩率(全要素生産性)が、「マイナス0.3%」であった。

 

中国経済が、すでに価格下落の恒常化によって技術進歩率がマイナスに落込んでいる。これは、ソ連経済崩壊末期の状況と似通っているもので、背筋が凍るほどの不気味さである。中国経済が、危険水域へ入っているシグナルを発しているからだ。

 

「難破船から最初に逃げ出すのはネズミ」という寓話がある。身近な者が、危険を察知して一番早く逃げ出すという意味である。最近、中国政府高官の親族が地下銀行を通じる違法送金で、東京のマンションを購入しているという報道があった。英経済紙『フィナンシャル・タイムズ』(9月6日付)は、次のように報じた。

 

「中国人向けに賃貸物件や売買物件を扱う不動産仲介会社に務めているグオさんは、『私どもの扱う物件を購入してくださる多くのお客様は中国政府の高官の親族なので』と語った」

 

中国政府高官の親族が、違法な地下銀行経由により東京でマンションを購入している理由は、中国経済の危機を身近に感じている結果であろう。これは、単なる富裕層の資産逃避ではない。高官親族の行動は、習近平体制への危機感の表れである。 体制の中枢にいる人物の親族が、国外に資産を移すのは体制の持続可能性に対する深刻な懸念を示しているのだ。これは、ソ連末期にも見られた現象である。エリート層が、先に逃げ道を確保することは、制度崩壊の予兆となることが多いのである。

 

世間的に言えば、一国経済の盛衰はGDP成長率で評価されている。それは、表面的な現象である。経済は、成長率が高い低いという問題でなく、効率的であるかどうかが、最も問われるものだ。その尺度が、技術進歩率(全要素生産性)である。中国の経済計画では、経済を動かす「心臓部」への関心が全くない。過剰投資=過剰生産によって、世界市場のシェアを高めることで国威を発揚する単純な考え方である。その結果、価格暴落が起っても大して関心を持たないという、致命的な欠陥である「物量主義」に囚われている。

 

価格暴落は、せっかくつくり上げた生産性を未実現のままに「捨てる」愚かな行為でもある。習氏は、「価格は安いほど良い」という考え方の持ち主である。だが、生産性は投入コストと適正利潤が回収できて初めて実現する。これによって、経済の再生産過程が支障なく進むのである。この基本的な部分が、理解されていないのだ。(つづく)

 

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