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2025年のノーベル化学賞は、京都大学の北川進特別教授(74)ら3氏に授与すると発表された。狙った物質を内部にとじ込められる「金属有機構造体(MOF)」の研究が、脱炭素や有害物の除去など幅広い産業の発展に寄与することが評価された。日本出身の自然科学分野のノーベル賞受賞は、25年の生理学・医学賞の受賞が決まった大阪大学の坂口志文特任教授に続き27人(外国籍を含む)となる。化学賞の受賞は19年の旭化成の吉野彰名誉フェロー以来で9人目だ。

 

MOFは、微細な穴が無数に開いていて1グラムあたりの表面積はサッカーコートに匹敵するという。ここへ、狙った物質を大量にとじ込められるのだ。すでに、果物の鮮度維持や半導体製造向けで実用化しているが、今後、期待されるのが脱炭素分野での応用とされる。

 

『日本経済新聞 電子版』(10月8日付)は、「ノーベル化学賞に北川進氏ら 金属有機構造体を開発、脱炭素に寄与」と題する記事を掲載した。

 

スウェーデン王立科学アカデミーは8日、2025年のノーベル化学賞を京都大学の北川進特別教授ら3氏に授与すると発表した。狙った物質を内部にとじ込められる「金属有機構造体(MOF)」の研究が、脱炭素や有害物の除去など幅広い産業の発展に寄与することが評価された。

 

(1)「授賞理由は、「金属有機構造体の開発」。北川氏のほか、オーストラリアのメルボルン大学のリチャード・ロブソン氏、米カリフォルニア大学バークレー校のオマー・ヤギー氏の3人の共同受賞となった。北川氏は8日、スウェーデン王立科学アカデミーとの電話で「私の夢は、空気を捕獲して分離し、例えばCO2や酸素や水などを得ることにある。空気は再利用できる。このサイクルは、私たちの社会にとっても、また私たちの惑星にとっても非常に重要だ」と話した」

 

MOFは、「魔法の構造体」である。微細な穴が無数に開いていて1グラムあたりの表面積は、サッカーコートに匹敵するというから驚きである。北川教授は、この微細な穴に空気を取り込んで、CO2や酸素や水などを分離することだという。すごい夢である。これによって人類はさらに自然環境を浄化できる。

 

(2)「同日、京都大学で開かれた記者会見では「私は新しい機能を持つ材料開発に取り組んできた。新しいことへのチャレンジが科学者にとっての醍醐味だ。辛いこともいっぱいあるが過去30年以上楽しんできた」と喜びを語った。自身の研究人生について「科学を一緒に進めてきた同僚、学生、博士研究員の皆さんに感謝したい。理解して支えてくれた家族にも感謝している。私はいい環境に恵まれた」と振り返った」

 

北川氏は、記者会見で日本人初のノーベル化学賞受賞者(1981年)の福井謙一氏らが紡ぐ、京大の基礎研究の流れが重要なバックグランドになっていると指摘した。これは、先に生理学・医学のノーベル賞授賞の阪大坂口教授が述べたように、日本の免疫学研究の伝統を重視する視点と同じである。学問研究でも、基礎研究姿勢が代々、受け継がれるのであろう。

 

(3)「MOFは気体などの分離、回収、貯蔵を効率化できる技術として世界で研究が加速し、産業応用が広がっている。微細な穴が無数に開いていて1グラムあたりの表面積はサッカーコートに匹敵する。工場で出る排ガスや空気が含むCO2を分離・回収できれば、温暖化ガス排出を大幅に減らせる。ただ、現在の手法はコストが課題となっている。MOFは製造が簡単なうえ、目的の物質が内部の微細な穴に入り込むように設計できるため、低コストで効率的に分離・回収が可能になるとされる」

 

微細な穴が無数に開いていて1グラムあたりの表面積は、サッカーコートに匹敵するとは驚きだ。見た目は、「微少」でも中味は「巨人」である。

 

(4)「北川氏は近畿大学助教授だった1989年、金属と有機物を含む「金属錯体」で規則的に蜂の巣のように穴が開いた多孔質材料を作れることを見つけた。さらに構造体から水を除去するとガスを貯蔵できることを示し、脱炭素への応用に道を開いた。97年にドイツの化学会誌に論文を発表し、各国で研究が盛んになった。共同受賞となったロブソン氏は無数に穴が開いた構造を1989年に発表。イオンを交換できるほか、化学反応の触媒として活用する可能性を見出した。ヤギー氏は99年、300度に加熱しても壊れにくく安定した構造体に改良し、産業応用への可能性を広げた。夜の砂漠で空気にわずかに混ざる水蒸気を捉えて、朝に太陽光を当てて温めると飲料水を回収できることを示した」

 

北川氏は、学生時代から卓越した洞察力と直感力を持っていた。北川氏が、京大大学院博士課程を修了した後、十数年間にわたり共同で研究した近畿大の宗像恵名誉教授には、大学院生時代の北川さんの印象が今も鮮明に残っている。北川氏の鋭い質問で問いただす姿勢に強い印象を受け、近畿大助手に迎え入れたという。