欧州最大のドイツ経済が正念場を迎えている。政府によると2025年の実質成長率は0.2%にとどまり、3年連続で景気低迷を避けられない見通しだ。23〜24年のマイナス成長からは脱却するものの、26年に見込む1%台への急成長は再軍備を急ぐメルツ政権の財政頼みが鮮明で、景気の実力が見えにくくなる。
『日本経済新聞 電子版』(10月12日付)は、「ドイツ経済、3年連続で低迷へ 財政頼み鮮明で強まる『戦時経済色』」と題する記事を掲載した。
「ドイツ経済は19年以降、足踏み状態だ」「国民もうまくいっていないと気づいている」――。メルツ政権で経済製作のかじ取りを担うライヒェ経済相は8日、記者会見の冒頭から厳しい言葉で危機感を訴えた。ドイツ政府は秋の経済見通しで、25年の実質成長率を0.%とした。4月時点のゼロ%から小幅に上方修正したものの24年まで2年連続でマイナス成長に転落しており、景気浮揚は25年も不発に終わりそうだ。「2年連続」は東西統一後で02〜03年の1度しかなかった。
(1)「自動車や化学が屋台骨のドイツ経済は欧州で最も大きく、ユーロ圏の域内総生産(GDP)の3割を占める。ロシアからの安価なガス調達が止まった上、貿易相手国である中国の景気減速で構造不況に直面した。足元はトランプ米政権の高関税も逆風だ。最大の焦点は26年にどこまで景気が持ち直すかだ。政府見通しでは26年に1.3%、27年に1.4%と一転して急成長に向かうシナリオを描いた。GDPの水準としては、高インフレを招いたウクライナ危機後の景気の落ち込みをようやく取り返す」
ドイツ経済不振の理由はいくつかある。なかでも、主力産業の自動車がEV(電気自動車)の「一本足打法」で躓いた影響は大きい。完全な戦略ミスである。2025年8月の鉱工業生産は前月比で4.3%も低下し、特に自動車生産は18.5%もの落ち込みだ。BMWは業績見通しを下方修正し、ボッシュは1万3000人の追加削減を発表した。2030年までに自動車関連で約10万人の雇用が失われる可能性があるとの分析もある。これは、部品サプライヤーまで含めた広範な雇用減となる。
(2)「メルツ首相は政権発足前に先手を打ち、基本法(憲法)改正で厳格な債務抑制策を緩めた。ロシアの脅威を念頭に国防費の増額に道を開き、インフラ投資とあわせた追加の財政支出は今後10年あまりで1兆ユーロ(約175兆円)規模に達する見通しだ。金融市場では楽観論が先行する。米ゴールドマン・サックスはドイツ政府より強気で、27年の実質成長率が2%近くまで高まるとの予測だ。9月に25年度予算やインフラ投資の基金が成立したことで「財政拡張策が迅速に実行されると期待する」(ニクラス・ガルナート氏)」
ドイツ産業界は塗炭の苦しみにあえぐが、金融市場は楽観論に立っている。インフラ投資とあわせた追加の財政支出は、今後10年あまりで1兆ユーロ(約175兆円)規模に達する見通しであることが材料になっている。
(3)「数字上の景気浮揚とは裏腹に、不安は残したままだ。1%台への急成長は個人消費など需要の持ち直しを前提とするものの、足元では電気自動車(EV)移行に苦しむ自動車大手や部品会社による大規模なリストラが相次いでいる。「(成長の)大部分は防衛投資といった巨額の政府支出がもたらす」(ライヒェ氏)ことで、景気の実力が見えにくくなる危うさがある。独有力シンクタンクのIfO経済研究所なども共同声明で「拡張的な財政政策が成長の弱さを覆い隠す」と指摘する。「景気の底を打ったように見えても、根本的な経済構造の弱さが残るため幅広い回復は期待できない」とクギを刺す」
財政支出の拡大が、ドイツ産業の抱える弱点をカバーするようにみえるが、本質部分は変っていない。自動車関連で約10万人の雇用が、2030年までに失われる可能性があるとの指摘は、ドイツ経済へ重くのしかかっている。
(4)「実際、ドイツ経済は低成長社会に移行している。「景気の巡航速度」を映す潜在成長率は30年まで0.6%程度にとどまる見通しだ。メルケル政権の15年には1.5%程度あったのが一転、日本と肩を並べるゼロ%台半ばで推移する。成長力を押し下げる一因は労働量の不足だ。移民流入が続いても日本と同様に少子高齢化が進む。高止まりするエネルギー価格の抑制や設備投資の後押し、スタートアップ企業の育成といった成長戦略が求められている」
ドイツ経済も、これから本格的な労働力不足に直面する。潜在成長率は、日本並みの0.5%程度へ低下するとみられる。
(5)「巨額の財政出動を起爆剤にした経済再生は、ドイツにとって大きな賭けだ。独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の持ち株会社ポルシェSEが防衛産業への参入検討を明らかにするなど、マネーの転換を期待した動きも増えてきている。地方政府からはインフラ投資を期待する声も上がる。東部ザクセン・アンハルト州で経済担当のシュテファニー・ペッチュ次官は日本経済新聞の取材に「ビジネス拠点への投資がまさに必要で、道路や橋への資金も重要だ」とインフラ需要を話す」
ドイツは、健全財政に固執した余りにインフラ投資も不足する事態を招いた。こういう弱点はこれから修正されるが、「財政堅実ドイツ」という看板は簡単に下ろせないであろう。


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