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インドネシア政府は、高速鉄道を巡り建設費用の大半を融資した中国と、債務再編の交渉に入った。事業は、政府が日本案を蹴って中国案を採用した。間もなく開業2年だが、赤字に歯止めがかからず経営危機に直面しており、政府の財政負担が拡大する可能性がある。日本案は、ODA(政府開発援助)で金利はほぼゼロ。中国は2.2%の金利であり、インドネシアは、大きな誤算をして頭を抱えている。

 

『日本経済新聞 電子版』(10月13日付)は、「インドネシア高速鉄道、中国と債務交渉 赤字止まらず『時限爆弾』に」と題する記事を掲載した。

 

同国の高速鉄道「Whoosh(ウーシュ)」は2023年10月17日に商業運転を始めた。東南アジアでは初の高速鉄道で、首都ジャカルタから西ジャワ州の主要都市バンドンまでの140キロメートルを最高時速350キロメートルで結ぶ。

 

(1)「6月末には乗客数が累計1000万人を超えた。だが、駅が中心部から遠く利便性が悪いことや運行区間が短いことなどから利用は伸び悩んでいる。運営するインドネシア中国高速鉄道社(KCIC)によると、1日当たりの乗客数は平日で1万6000〜1万8000人。現地メディアによれば、1日当たり5万〜7万6000人という当初目標の半数にも届かない。KCICは、国鉄クレタ・アピ・インドネシア(KAI)を中心とするインドネシアの国営企業連合が60%、中国の企業連合が40%を出資する」

 

中国高速鉄道自体が、中国国内で杜撰な計画で建設を進めている。せっかく建築した駅舎は、20以上も採算が見込めずに開業しないというほどだ。インドネシアの高速鉄道も、同様な結果に陥っている。駅が中心部から遠く利便性が悪いことや、運行区間が短いことなどから利用は伸び悩んでいるのだ。

 

(2)「国営企業連合は24都市12月期に4兆1950億ルピア(約385億円)の最終赤字を計上した。25年1〜6月期も1兆6250億ルピアの赤字が続く。負債は6月末時点で18兆9348億ルピアに膨らんだ。KCIC全体でみれば、赤字や負債額はさらに大きい。「(高速鉄道の財務問題は)まさに時限爆弾だ」。KCICの主要株主である国鉄KAIのボビー社長は8月、国会の委員会で危機感をあらわにした」

 

インドネシア政府が、途中で日本案を蹴って中国案に乗ったのは、政府負担がないという「甘言」であった。ところが、杜撰な建設計画であり、工事は延期するという事態へ追い込まれた。こうして債務が膨らみ、結局は政府負担となって跳ね返る。

 

(3)「高速鉄道の建設は、中国が広域経済圏構想「一帯一路」の一環として、資金や技術面で支援した。72億ドル(1兆1000億)円)の総事業費のうち75%に当たる54億ドルは中国開発銀行からの融資だ」

 

中国開発銀行からの融資54億ドルの金利は、年間約1億2000万ドルと報道されている。金利は、2.2%にもなる。日本のODAでは0.1%見当である。2.2%vs0.1%の差は大きい。

 

(4)「インドネシア政府はもともと日本の新幹線方式を導入する計画だったが、15年に中国案に乗り換えた。当時のジョコ政権は中国案を選んだ理由として、政府による財政負担や債務の政府保証が必要ないことを挙げた。危機に陥ったのは事業の見通しの甘さが背景にある。総事業費は当初は約60億ドルを予定していたが、建設の遅れなどで12億ドルも膨らんだ。地元報道によれば、利息支払いだけで年間約1億2000万ドルに上る」

 

日本は、詳細な建設工事案まで出しており調印直前まで話が進んでいた。中国は、事前調査もせずに日本の工事案を参考に、インドネシア政府へ甘い計画を提出した。その代償が、インドネシアと中国の双方へ降りかかっている。

 

(5)「政府は、総事業費が膨らんだ際にも一部国費を投入した。中国との債務再編を巡る交渉では、さらなる国費投入を迫られる可能性が出ている。政府は利用客の拡大に向け高速鉄道を同国第2の都市スラバヤまで500キロメートル以上延伸する構想を打ち出していた。しかし、債務問題の表面化で不透明感が漂う。インドネシアのシンクタンク、経済法律研究センター(CELIOS)のビマ・ユディスティラ氏は、「債務再編では政府や政府系ファンドがさらに負担やリスクを負う可能性がある。前政権は説明責任を果たす必要がある」と語る」

 

インドネシア政府は、「安物買いの銭失い」となった。総事業費が膨らんだ際にも、一部国費を投入しているからだ。中国が、「財政負担ゼロ」という当初の触れ込みは、全く事実に反する結果となった。