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13日にノーベル経済学賞の受賞が決まったオランダ出身のジョエル・モキイア氏ら3氏の研究は、経済成長の原動力であるイノベーション(技術革新)の役割を広範に解明した。知識の普及が、技術革新に不可欠であることを明らかにした。技術革新によって生じる失業も含めた「創造的破壊」の負の側面にも目を向け、各国の政策にも影響を与えている。

 

『日本経済新聞 電子版』(10月13日付)は、「スウェーデン王立科学アカデミーは3人の受賞者のうち、経済史が専門のモキイア氏の貢献を最も大きく評価した。スウェーデンと英国の経済成長の歴史をたどり、14〜18世紀初頭までは成長や所得の伸びが続かなかったことに注目した。一方、19世紀初頭からは多くの工業国で年2%程度の経済成長が続くようになった。

 

3氏は、技術進歩の原動力となる仕組みに注目した。人類史のほとんどの期間で経済成長は停滞したが、新しい製品や生産技術が出てきて古いものと置き換わることで持続的な成長が生じ、生活水準が向上するメカニズムを定式化した。

 

受賞者のうちモキイア氏は、歴史的資料を用いて、産業革命以降、特定の発見が次の発明を生み、持続的な成長が可能となっていくプロセスを解明した。技術革新が続くための科学的な素地や、発明を受け入れる社会的基盤の重要性も強調した。同じく持続的成長のメカニズムを研究したアギヨン氏とホーウィット氏は、旧来の製品を新たな製品が押しのけることで成長が加速する「創造的破壊」のプロセスを数学的なモデルで表現した。

 

これら3氏による「経済モデル」を日本に適用すると、極めて強い相関関係が認められた。大型財政支出をしないでも、企業に技術革新のしやすい条件を整えれば、自然発生的に民間経済は動き出すことが分った。高市氏は、「大型財政支出」をと威勢の良い掛け声をかけているが、環境整備という「種銭」だけ潤沢に用意すれば、企業は自らの力で立ち上がれる。今回のノーベル経済学賞モデルは、こういう身近な示唆を与えているのだ。

 

1)「歴史の転換点で何が起きたのか。モキイア氏は蒸気機関の改良や製鋼技術の進歩など、相互に関連する知識の普及が成長を持続的なものにしたと提唱した。知識は自然科学に限られず、16世紀以降の啓蒙主義など思想的側面、議会など変化を後押しする制度の役割も重視した。明治学院大の岡崎哲二教授は、「モキイア氏の業績は他の経済成長に関する研究のベースになっている」と話す」

 

確かに、ケインズ型の有効需要理論に慣らされてしまった現代人の頭脳は、今回のノーベル経済学賞モデルによって「毒気」を抜かれる思いだ。もっとハッキリ言えば、シュンペーターの企業家論の重要性を再認識させてくれる。

 

2)「仏経済学者のフィリップ・アギヨン氏とカナダ出身のピーター・ホーウィット氏は、「創造的破壊」とよばれる現代の技術革新を数学やデータを用いて定式化した。たとえば企業の新規設立件数で測定される「創造」と、倒産・撤退件数が示す「破壊」は、知識の集合体である特許件数とどう関わるか。アギヨン氏らは米国のデータから、特許件数が増えるほど創造と破壊の双方が活発になり、経済成長も加速することを示した」

 

企業の新規設立件数と倒産・撤退件数は、特許件数が増えるほど創造と破壊の双方が活発になり、経済成長も加速させる。この事実は、私も日本経済や中国経済についても当てはまることを確認できた。余りにも一般論過ぎて、これまで見過ごされてきたが、極めて貴重な事実である。政策立案の原点は、ここにある。

 

3)「破壊が創造を生むこともある。たとえばアギヨン氏は著書「創造的破壊の力」(邦訳2022年発行)の中で、1997〜98年のアジア通貨危機で打撃を受けた韓国に注目する。国際通貨基金(IMF)が韓国への支援と引き換えに財閥による独占の是正を要求すると、新たな企業が技術革新に貢献し始め、生産性の伸びが高まった」

 

韓国は、財閥が経済全体を支配している。これに対抗すべく強力な労組が対峙している。強対強の対決だ。これが、韓国経済を硬直化させている。まだまだ、創造的破壊力は生かされていない経済である。

 

4)「ただし破壊には、失業者の健康悪化など負の側面もある。そこでアギヨン氏は、企業による従業員の解雇を容易にする一方、失業保険を充実させたデンマークに目をつけた。雇用の流動化と労働者の生活保障を両立するデンマークの「フレキシキュリティー」と呼ばれる制度は、同様の制度のない米国と比べて労働者の健康悪化を和らげたと著書で主張した。こうした研究成果は各国の成長戦略や雇用政策にも反映され、日本に与える示唆も大きいといえる」

 

雇用の流動化は、失業救済対策と並行して行なうべきものである。受け皿(失業救済対策)なしには雇用の流動化は進まない。